2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2023年 商法
第1問
1. Xとしては、令和2年7月以降支払われていない分の報酬の支払いを請求することが考えられる。
これに対して、甲社は、令和2年6月末日に、Xを非常勤取締役に異動させて、報酬を月額5万円に減額する旨の決議、令和3年が6月末日に、Xの報酬を無報酬とする旨の決議が、それぞれ甲社取締役会においてなされたのであるから、Xの請求する報酬の支払い義務は負わないと反論すると考えられる。
2. まず前提として、法361条は、取締役の報酬等の額の決定については株主総会決議によることを要する旨を定めているが、その趣旨はお手盛りによる会社財産の流出を防止することにあるところ、報酬等の総額さえ決定されればその趣旨は達せられることから、株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会に各取締役に対する配分を一任する決議も許される。
そして、取締役の報酬については、株主総会決議により取締役報酬の総額が決定され、取締役会において各取締役に対する配分を決議し、これによって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額が会社と取締役とのあいだの契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するものと解される。
甲社では、取締役の報酬について、支給総額の上限を株主総会決議によって定め、個別の取締役の報酬の決定は取締役会に一任することが慣例とされており、また取締役会は取締役の報酬額に関する本件内規を定めていた。そして、Xの報酬も本件内規に従って月額70万円と具体的に定められていたことから、70万円がXの報酬額になりそうである。
3. もっとも、職務内容に従って報酬内容が機械的に定まることを取締役がその就任時に了知していた場合には、それが取締役任用契約の内容となっていたといえるため、職務内容の変更に従って報酬額を変更することが可能になる。
本件内規によれば専務取締役は月額70万円、非常勤取締役は月額10万円とされ、役職の変更があった場合にはそれに応じて報酬額も変更されることとされていた。そして、Xは取締役への就任を承諾するにあたり、本件内規について説明を受け、了承していたため、本件内規に基づく報酬の変更は可能である。
Xは、令和2年6月末日付けの甲社取締役会においての役職を専務取締役から非常勤取締役に異動させられている。そのため、Xの報酬額を本件内規に従って月額10万円に変更することは可能である。しかし、Xの報酬額は、本件内規の規定にかかわらず月額5万円とする議案が可決されており、同年7月以降、Xに対しては月額5万円のみが支払われた。さらに、令和3(2021)年6月末日付けの甲社定時株主総会では、Xの報酬を無報酬とする議案が可決され、同年7月以降、Xに対しては報酬が支払われていない。
Xは、いずれの報酬の減額についても了承していないため、上記変更は本件内規の範囲でのみ有効である考えるべきである。
4. よって、Xは、未払報酬額として、180万円の支払を請求することができる。
第2問
1. 設問1
会社法199条2項と同法 201条1項において、募集株式の発行等における家集事項の決定権限を有する機関を、公開会社であるか否かによって異なるものとしていることの趣旨は、公開会社においては、既存株主の持株比率の保護よりも、会社の資金調達の機動性に重きが置かれるため、会社の機動的な資金調達を実現することにある。
2. 設問2
会社法440条1項が株式会社に対して貸借対照表(大会社にあっては貸借対照表及び損益計算)の公告を義務付けている趣旨は、株式会社が株主有限責任制度を採用していることに鑑み、株主や会社債権者のみならず、これから取引関係に入ろうとするものに対して会社の財務状況を開示させることによって、投資や取引の参考にさせることにある。
以上