10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2022年 民事訴訟法
設問1
1. Yの主張は、本判決の確定により生じた既判力により遮断され、認められないのではないか。
⑴ 既判力の根拠は手続保障を与えられた当事者の自己責任であり、その根拠は不当な蒸し返しの防止である。そのため、既判力は原則として「主文に包含するもの」(民事訴訟法(以下略)114条1項)、すなわち訴訟物たる権利法律関係の存否に関する判断に生じる。そして、前訴と後訴の訴訟物どうしの関係が同一、先決、矛盾のいずれかにある場合には、後訴において既判力の生じた判断について争うことはできない。
⑵ そして、事実審口頭弁論終結時までは攻撃防御方法の提出が可能であり、そこまでは手続保障が図られているといえるから、既判力が生じる基準時は事実審口頭弁論終結時であると解する。そこで、基準時後に基準時における権利関係を争うために基準時前の事由を主張することは許されない。
2. 本件では、本判決確定により、XY間で、事実審口頭弁論終結時におけるXのYに対する乙収去甲明渡請求権の存在につき既判力が生じる。そのため、建物買取請求権の存在は、上記判断と矛盾する関係にある。そして、Yの建物買取請求権の主張は、基準時後にされたものである。以上から、主張が許されないようにも思える。
しかし、建物買取請求権は、前訴の訴訟物たる権利の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利ではない。また、建物買取請求権を行使した場合には当該建物の所有権が相手方に移転するという不利益を被るため、建物所有権を失うという点で賃借人の実質的敗訴をもたらしうる。そのため、建物買取請求権は、Yにこれを主張するだけの十分な手続保障が与えられていたとは言えず、不当な蒸し返しでもない。そのため、Yの建物買取請求権の行使は既判力によって遮断されない。
3. 以上より、Yの主張は認められる。
設問2
1. Yの訴えは、本訴で提出した相殺の抗弁における自働債権と同一の貸金債権にかかる貸金の返還を求めるものである。そこで、本訴の確定判決により生じた既判力が作用し、Yは貸金債権の存否を争うことができないのではないか。
2. 前述同様、本判決が確定しているため、XY間で、XのYに対する乙収去甲明渡請求権の不存在及び、150万円の地代支払請求権の不存在につき既判力が生じる(114条1項)。
加えて、相殺の抗弁についての判断についても、理由中判断ではあるものの、例外として既判力が生じる(114条2項)。
3. 本件でYは、150万円の地代債権を受働債権、150万円の貸金債権を自働債権として相殺の抗弁を提出した。よって、本判決確定により、XY間において、反対債権たる150万円の貸金債権の不存在につき既判力が生じる。
そして、Yの訴えは、114条2項により既判力が生じた貸金債権と同一の債権を訴訟物とする。したがって、訴訟物が同一であるため、Yは貸金債権の存否を争うことはできない。
4. 以上より、既判力が作用し、Yは貸金債権の存否を争うことはできない。そのため裁判所は、Yの訴えを棄却するべきである。
以上