5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
音声記録①について
1. 音声記録①は、VからA、そこからスマートフォンのボイスレコーダーというように、2つの過程を経ている。まず、ボイスレコーダー自体が伝聞証拠にあたり、証拠能力が認められないのではないか(320条1項)。
⑴同項の趣旨は、供述内容の信用性を担保するために反対尋問(憲法37条2項前段)等の検証を経ていない供述証拠の採用を原則禁止し、誤判防止を図る点にある 。すなわち、伝聞供述は知覚・記憶・表現・叙述の過程に誤りや虚偽が入り得るため、供述者本人を法廷に呼び出し直接に問い正すことで真実性を確認すべきとの考えに基づく 。
ボイスレコーダーの場合、録取するまでの知覚・記憶・表現・叙述の各過程につき機械による正確性が担保されているため、誤りが介在するおそれが低い。そのため、ビデオテープ自体は供述証拠ではないと言える。
⑵したがって、ボイスレコーダー自体は伝聞証拠に当たらない。
2. 次に、ボイスレコーダーに記録された音声①が伝聞証拠となり、証拠能力が認められないのではないか。
⑴そもそも、同項の趣旨からすれば、公判廷外供述を内容とする証拠は、その供述内容の真実性が要証事実との関係で問題となる場合には伝聞証拠として原則排除されると解されている 。
⑵音声①はXのVに対するストーカー行為を立証する目的で提出されようとしているため、Vの発言内容が真実であることを前提にXの犯行動機を推認しようとするものである。したがって、本証拠は公判廷外における他人の供述内容の真実性を立証目的とする証拠に当たる。
⑶よって伝聞証拠に該当し、原則として証拠能力は認められない。
3. しかし、供述証拠であっても一定の要件を満たせば証拠能力が認められる(伝聞例外)。とりわけ、供述者が被告人以外の者である場合には刑訴法321条1項各号が伝聞例外を規定する。音声①の供述者は被害者Vであり、裁判官又は検察官の面前における供述ではないため、321条1項3号の適用を検討することになる。
⑴同項の趣旨は、捜査機関以外で作成された供述記録であっても、供述者を公判で尋問することが不可能で、かつその供述内容が事件を解明する上で重要かつ信用性の高い場合には、例外的に証拠として用いる必要性があるためである。具体的には、①供述不能、②証拠の不可欠性、③絶対的特信状況を満たす場合には、当該供述を録取した書面(または録音媒介物)に証拠能力が認められる。なお、機械的に録取されているから、正確性の担保が署名・押印あるのと同程度に確保されているため、同項で必要とされる、本人の署名・押印は不要である。
⑵まず、供述者Vは既に殺害されており死亡しているため、公判で証言させることは不可能である。供述不能要件は明らかに充足する。
次に、音声①によれば、VはXに対しつきまとい、X宅の玄関の中まで入っていこうとしているところ、XはVに対し犯罪行為をも厭わないような異常な執着を見せていたことを認定できる。もっとも、音声②は電話でVに対し直接殺害を仄めかす発言であり、その発信元がXの携帯電話番号であることからすれば、発言主の男がXであるという事実を強く推認させる。よって、翻って音声①は本件犯行の存否の証明に欠くことができないものとまでは言えない。
⑶したがって、音声①は同号を満たさない。
4. 以上より、音声記録①は、「被告人による本件犯行の動機及び意図」を立証趣旨として証拠とするための要件を満たさない。
音声記録②について
1. 音声記録②は、XからV、そこからVのスマートフォンのボイスレコーダーという2つの過程を経ているところ、音声記録①と同様に、ボイスレコーダー自体は、伝聞証拠に当たらない。では、録取された音声②が伝聞証拠に当たり、証拠能力が認められないのではないか。伝聞証拠に当たるか否かを、上述の基準で判断する。
音声②は、「お前を殺して俺も死ぬ」というX名義の電話からの発言を録音したものである。検察官はこの録音をXの犯行動機や意図(殺意)の立証に用いるとしている。この場合、この証拠は、「発言者の男が実際に殺害しようとしていた」という供述内容の真実性を立証するのではなく、殺害を示唆する発言をXの電話番号から架電した男が行ったという供述行為そのものの存在を通じて、Xの主観的な意図や動機を推認するものである。具体的には、本録音から推認される要証事実は、「Xの電話番号から架電した男が被害者Vに殺意や敵意などの強い感情を抱いていたこと」である。これは発言内容が事実として殺意があったかどうかを立証しようとしているのではなく、Xの電話番号からの当該発言そのものがXの心理状態や意図を推認させる証拠として用いられているにすぎない。したがって、本録音は供述内容の真実性が問題とならない非伝聞証拠と位置づけられ、伝聞法則による証拠能力排除の対象とはならない。
2. 以上より、音声記録②は、「被告人による本件犯行の動機及び意図」を立証趣旨として、無条件に証拠とすることができる。