1/3/2024
1. Yは成年後見人にあたるところ、成年後見人には訴訟能力が認められない(民事訴訟法(以下、略)31条)。そして、行為者を保護する観点から、制限的訴訟無能力者による訴訟法上の効果を伴う行為は、法定代理人等による追認なき限り、無効である。そこで、Yによる「Xが主張する貸金契約があったことは認める」旨の主張が訴訟法上の効果を伴い、追認の対象となるかを検討する。
⑴ 民事訴訟法は、私的自治の訴訟段階への反映の観点から、訴訟資料の収集及び提出を当事者の責任かつ権能とする建前たる弁論主義を採用している。当該建前の下、裁判所は、当事者間に争いのない事実を判決の基礎としなければならない(弁論主義第二テーゼ)。そして、①口頭弁論期日等における、②相手方の主張と一致する③自己に不利益な④事実を認める旨の弁論としての陳述たる裁判上の自白は、当事者間に争いのない事実である。
ア 上記主張は、第一回口頭弁論記述において為されている(①充足)ところ、相手方たる
Xの主張と一致するものである(②充足)。
イ 基準の明確性の観点から、自己に不利益かの判断は、相手方にとって有利な法律効果の発生を基礎付ける事実かを基準に行うべきである。
本件訴訟における訴訟物は、XY間金銭消費貸借契約(民法601条)に基づく貸金返還請求権である。そして、XY間貸金契約締結の事実は、当該請求権の発生原因にあたる。そこで、上記主張における事実は、相手方たるXにとって有利な法律効果を発生させる事実といえる。
したがって、上記主張は自己に不利益なものといえる(③充足)。
ウ 権利の発生、消滅、障害及び阻止の判断に必要な事実たる主要事実は、私的自治の原則が妥当する事実である。そして、弁論主義を採用した上記趣旨に鑑みれば、主要事実は弁論主義の対象となる事実と解すべきである。
上記の通り、上記主張は貸金返還請求権の発生原因事実にあたる。そこで、権利の発生を判断するのに必要な事実といえ、主要事実にあたる。
したがって、上記主張は、弁論主義の対象となる事実にあたる(④充足)。
⑵ よって、Yによる上記主張は、訴訟法上の効果を伴う裁判上の自白にあたり、法定代理人たるAによる追認の対象となる。
2. 「Xが主張する貸金契約があったことは認める」という発言以外を追認する旨のAによる主張がどのような意味を持つのかについて、検討する。
⑴ 訴訟行為に対する追認は、従前の訴訟行為の遡って有効とする(34条2項)。そして、一部追認を許せば、訴訟無能力者にとって有利なもののみに追認が可能となり、相手方当事者の地位を害するおそれがある。そこで、訴訟行為に対する追認は、従前の手続きを不可分一体のものとして行うべきであると解する。
また、制限的訴訟無能力者による訴訟法上の効果を伴う訴訟行為が無効となる趣旨は、行為者を保護する点にある。そして、訴訟無能力者の保護は、相手方の知不知等の態様を問わない絶対的なものであるため、一部追認が為された場合には、訴訟行為の全部につき追認拒絶が為されたと擬制され、追認拒絶につき禁反言による制約は働かないと解すべきである。
⑵ 本件において、Aによる上記一部追認は、Yによる訴訟行為の全部につき、追認拒絶する効果を有する。そして、Yによる全ての訴訟行為が確定的に無効となる結果、本件訴訟に係る手続をAに対する送達(102条1項)からやり直すこととなる。
3. よって、Aによる陳述は、上記の訴訟法上の効果を有する。
以上