1/7/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
名古屋大学法科大学院2023年 民事法系
第1 設問Ⅰ
1. 設問(1)
⑴ 利息とは、消費貸借契約(民法(以下、略)587条)により借りていることへの対価、すなわち元本の使用料をいう。他方で、遅延損害金とは、債務者が弁済期に債務の履行をしなかったことが「債務の本旨に従った履行をしないとき」にあたるとして生じる債務不履行責任(415条1項本文)をいう。なお、法律関係の簡明化の観点より、「利息」(575条2項)とは、目的物が現実に引き渡された時点以降の部分については、前者の性質を有し、代金債務が履行遅滞となる時点以降の部分については、遅延損害金としての性質を有する。
⑵ したがって、両者は、その法的性質が約定を根拠とするか、債務不履行責任を根拠とするかという点で異同が存する。
2. 設問(2)
⑴ 親権は、「子の監護及び教育をする権利」(820条)及び「子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する」(824条)権限である。そして、財産管理につき、「自己のためにするのと同一の注意」(827条)義務を負う。他方で、未成年後見人は、「子の監護及び教育をする権利」(857条、820条)及び未成年者の「財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」(859条1項)権限を有する。そして、未成年後見人は、財産管理につき、「善良な管理者の注意をもって…処理する義務」(869条、644条)を負う。
⑵ したがって、両者は、注意義務の内容につき異同が存する。
第2 設問Ⅱ問(1)
1. 本件解除の意思表示の効力
⑴ 契約1において、借主たるBは、貸主たるAに対して、毎月の賃料をその月の初日に支払う義務を負う。それにも拘らず、Bは、2022年9月5日時点で、2022年6月分以降の賃料を支払っていない。そのため、「当事者の一方がその債務を履行しない場合」(民法(以下、法令名略)541条本文)にあたる。
⑵ 「相当の期間」とは、「催告」(同条)の時期に関わらず、債務者が履行の大体の準備を終えていることを前提とした履行をするために必要な期間をいう。
契約1に係る賃料17万円は、2週間あれば用意することが十分に可能であり、もともと賃料が毎月の月初めに支払わなければならないと定められていることからすれば、2022年9月20日の時点を「相当の期間」と考えることができる。
⑶ そして、催告解除(同条)は、「催告」を要件とし、また、その行使方法は形成権である以上「意思表示」(540条1項)によらなければならない。本件では、2022年9月5日にBに到達した一通の内容証明郵便によって、未払いの賃料の全額を同月20日までに支払うように求める「催告」及び定めた期限の徒過を条件として契約1を解除する旨の「意思表示」が行われている。
したがって、同20日が徒過した時点で、解除の「意思表示」の効力が生じたといえる。
⑷ よって、本件解除の意思表示は、有効である。
2. 請求1の認否
⑴ Aは、Cに対して、甲の所有権(206条)に基づく甲建物明渡請求をすることが考えられる。
ア これをみるに、Aに甲建物に係る所有権が帰属することに争いはない。加えて、Cは、現在に至るまで甲建物に居住し続けていることから、Cは甲建物を占有していると評価できる。
したがって、上記請求は成立する。
イ これに対し、Cは、契約2に基づく転借権を根拠とする占有正権限が存在する旨の反論をすることが考えられる。
まず、契約1で甲の賃貸借契約がAB間で締結され、それに基づきBは甲の引渡を受けている。そして、Cは、Bとの間で契約2を締結し、それに基づき、2021年9月1日に甲建物の引き渡しを受けている。かかる、転貸借につきAの承諾を得ているから、契約2による転貸はAに対しても有効である(612条1項参照)。
したがって、上記の反論は成立する。
ウ もっとも、Aは、契約1が有効に解除された以上、上記Cによる反論は認められない旨の再反論をすることが考えられる。
上記の通り、契約1は債務不履行により催告解除されているところ、転貸借契約が原賃貸人による「承諾」(612条1項)を基礎として成立することに鑑みれば、請求1が為された時点で契約2に基づく「使用及び収益をすることができなくなった」(616条の2)と評価できる。そこで、契約1が有効に解除された場合には、契約2は終了(同条)し、上記Cによる反論は認められない。
なお、Cは、契約1に係る賃料債務の履行に際して、転借権の滅失という観点から「正当な利益」(474条2項)を有するといえ、第三者弁済を行い得る地位にあるが、転借人が原賃貸人に対して何らかの権利を有するわけではない(613条1項参照)から、原賃貸借の解除につき、転借人に対しても催告が必要とはいえず、転借人に対する「催告」無しに、催告解除の効果を同人に主張できると解する。
したがって、上記再反論は認められる。
エ よって、上記請求は認められる。
⑵ Aは、Cに対して、2022年9月30日に到達した内容証明郵便の翌日から明渡しに至るまで月額20万円の支払いを求める旨の不当利得返還請求(703条)をすることが考えられる。
ア Cは、上記内容証明郵便が到達した後も、甲建物を現在まで占有し続けている。そして、甲建物の所有権が同月30日から現在までAに帰属していることに争いはない。そこで、Cが、甲建物という「他人の財産…によって」(同条)甲建物の使用利益という「利得を受け」(同条)たといえ、「そのために他人」(同条)たるAが当該使用利益を得られなかったという「損失」(同条)を被ったといえる。
したがって、上記請求は成立する。
イ Cは、当該占有は契約2に基づく転借権に基づくことから、「法律上の原因」(同条)が存すると反論することが考えられる。
もっとも、上記の通り、請求1が為された時点で当該権利は消滅していることから、Cによる反論は認められない。
ウ したがって、上記請求は認められる。
3. 請求2の認否
⑴ Bは、Cに対して、2022年10月分以降も契約2に基づく転借料の支払を請求することが考えられる。もっとも、上記の通り、請求1の時点で契約2が終了していることから、請求2は成立しない。
⑵ したがって、請求2は認められない。
第3 設問Ⅱ問(2)
1. Bは、Dに対して、賃借権に基づき、乙土地から木材を撤去するよう請求(民法(以下、略)605条の4柱書)をすることが考えられる。
⑴ Bは、2022年10月25日に、乙土地を目的物とする契約3(601条)を締結し、乙土地の賃借権を取得している。そのため、Bは、「不動産の賃借人」(605条の4柱書)にあたる。
⑵ 乙土地には、Dが2022年10月30日に搬入した木材が置かれている。そのため、Dが乙土地を事実上支配しているといえ、「不動産を第三者が占有している」(同条2号)といえる。
⑶ まず、Bは、契約3に際して、不動産の賃貸借に係る登記(605条)を備えていない。次に、Bは、乙土地を駐車場として利用することを予定しており、同「土地の上に…登記されている建物を所有」(借地借家法10条1項)していない。
したがって、Bは、「第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備え」(605条の4柱書)た者にあたらない。
⑷ よって、上記請求は認められない。
2. 次にBは、契約3を解除(542条1項柱書)する旨の「意思表示」(540条1項)をすることが考えられる。
⑴ これをみるに上記の通り、AB間で契約3が有効に成立していることから、AがBに対して、2022年10月25日から、乙土地を使用収益させる義務を負っていたといえる。
⑵ 乙土地はDが木材置き場として占有しており、同人が乙土地を自らBに明け渡すことは考えられない。加えて、上記の通り、605条の4に基づく明渡請求が認められない事情に鑑みれば、「債務の履行が契約…の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である」(412条の2第1項)と評価できる。
したがって、AがBに対して、乙土地を「使用及び収益」(601条)させる旨の「債務の全部の履行が不能である」(542条1項1号)といえる。
⑶ よって、Bは、542条1項柱書に基づき、契約3を解除することができる。
第4 設問Ⅲ
1. 設問(1)
会社法(以下、略)49条は、「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」、579条は、「持分会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」と定める。この様に、登記が一定の法律関係の成立要件又は効力発生要件となっている場合に係る登記の効力を商業登記の創設的効力という。
2. 設問(2)
手形客観解釈の原則とは、手形行為が手形の記載を意思表示の内容とする法律行為である観点から、手形行為の解釈を行う際には、手形に記載されていない事情を考慮して、行為者の意思を推測し、若しくは手形の記載を変更ないし補充することは許されず、専ら手形記載の文言に基づいて行うべきとする原則をいう。もっとも、手形記載の文言解釈に際しては、必ずしも文言に拘泥すべきではなく、一般の社会通念に従って記載の意味内容を合理的に解釈する必要がある。
第5 設問Ⅳ
1. 株式分割(会社法(以下、略)183条1項)
株式分割とは、既発行の株式を分割してそれよりも多い株式にすることをいう。既発行の株式を分割する性質上、会社財産に変動をもたらさず、従って、株式一株あたりの単位を引き下げるものといえる。
2. 株式無償割当て(185条)
株式無償割当てとは、株式会社が株主に対し、保有株式数に応じて、当該会社の株式を無償で交付することをいう。株式の割当てに際し、払込みを伴わない性質上、会社財産に変動をもたらさず、従って、株式一株あたりの単位を引き下げるものといえる。
3. 相違点
⑴ 株式分割は、分割対象となる種類株式を保有しない者に対し、当該種類株式を与えることができない(183条2項3号参照)。他方で、株式無償割当ては、各株主が従前有していた種類株式とは異なる種類株式を割り当てることができる(186条1項1号括弧書参照)。
また、株式分割は、会社の保有する自己株式をも対象とする。他方で、株式無償割当ては、自己株式を対象として割り当てを行うことができない(186条2項)。
⑵ したがって、両者は、以上の2点で差異が存する。
第6 設問Ⅴ
1. Xは、A社の代理人としてPが議決権を行使したことから、本年9月に開催された臨時株主総会に係る「決議の方法が…定款に違反」(会社法(以下、略)831条1項1号)し、決議が遡及的に無効である(839条反対解釈)と主張し、決議取消しの訴え(831条1項柱書)を提起することが考えられる。
⑴ これに対しY社は、代理人資格を制限するY社定款は、310条に反し無効(民法91条参照)であると反論することが考えられる。
ア これをみるに10条は、合理的理由に基づく相当程度の制限までも禁止する趣旨ではない。そこで、代理人たる資格を制限する旨の定款は、①当該制限を課すべき合理的な理由があり、かつ、②相当程度の制限と認められる場合には、有効と解する。
イ まず、上記定款が定められた趣旨は、株主以外の第三者による総会の撹乱防止にあるといえる。そのため、当該定款は会社の利益を図る趣旨といえ、合理的な理由が認められる(①充足)。
ウ 次に、Y社は甲一族が株式の大半を有する会社であり、他の株主を特定することが容易であるから、他の株主に代理行使を委任することは、容易であったと考えられる(②充足)。
エ したがって、上記Y社定款は310条に反せず、有効である。
⑵ 次に、Y社は、上記定款が有効であるとしても、Pによる代理行使との関係では、当該定款の射程が及ばないと反論することが考えられる。
ア Y社定款の趣旨は上記の通りである。そこで、①代理行使を認めても株主総会が撹乱されるおそれがなく、②却ってそのような代理行使を認めないとすれば、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらす場合には、当該定款の射程は及ばないと解する。
イ これをみるに、まず、P社は、A社の総務部長であって、P社と労働契約を締結している。そのため、株主たるP社の指揮命令に反するおそれはなく、代理行使を認めても株主総会が撹乱されるおそれはないと評価できる(①充足)。
ウ 次に、Y社株主の大半は、創業者である甲の一族が保有している。そのため、Pによる代理行使が許容されなければ、甲の一族に代理行使を委任することとなり易いところ、当該委任を行えば甲の一族にとって有利な議決権行使がされるおそれが高い。そこで、Pによる代理行使が許容されなければ、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすと評価できる(②充足)。
エ したがって、Y定款の射程は、Pによる代理行使に及ばない。
オ よって、上記Xによる主張は認められない。
2. Xは、上記株主総会に際して、その招集通知は「株主」(299条1項)たる丙になされていないことから、「招集の手続…が法令に違反」(831条1項1号)し、決議が遡及的に無効であると主張して、決議取消しの訴えを提起することが考えられる。
⑴ Xは、上記違法事由が他人の招集手続に関するものであるため、Xには原告適格が認められないと反論することが考えられる。
ア 831条1項は、提訴権者を単に「株主等」と定めるにすぎず、提訴者自身の利益が害されたことを要件として設けていない。また、株主は、会社に対して法令・定款を遵守した株主総会の運営を求める利益を有する。そこで、他の株主に対する招集手続の瑕疵を主張する株主にも、原告適格が認められると解する。
したがって、Xには、上記訴えに係る原告適格が認められる。
⑵ Y社は、上記訴えは裁量棄却(831条2項)されると反論することが考えられる。
ア 確かに、招集通知は、会社の実質的所有者たる株主が、会社運営に係る意思形成過程に関与できる議決権行使の機会を知らせるものであることから、非常に重要な手続といえる。もっとも、丙は、株式総数の3%所有するに過ぎない上、株主総会において、毎回不規則発言を繰り返し、これによりY社の株主総会をいつも紛糾させており、今後の株主総会においてもこのような発言をするおそれが非常に高い株主といえる。そして、当該発言の動機は、自分が経営に参画できていないという会社の利益に何ら寄与しないものである。このような事情に鑑みれば、丙に招集通知を行わず、株主総会に参加する機会を与えなかった当該瑕疵は「重大でな」い(同項)といえる。
イ 丙はY社発行済株式総数の3%を有するにすぎないところ、上記株主総会決議は、賛成多数により可決されている。そのため、仮に、招集通知が適法に為されて、丙が反対に議決権を行使したとしても、決議の結果に変動が生じる余地はないといえる。そこで、上記招集手続違反は、「決議に影響を及ぼさないもの」(同項)といえる。
ウ したがって、裁判所は、上記訴えを裁量棄却すべきである。
⑶ よって、Xによる上記主張は認められない。
以上