2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2022年 商法
1. Bは、AおよびCに対し、違法行為差止請求権(会社法360条、以下法名略)の行使をするとともに、当該差止請求権を被保全権利として仮処分の申立て(民事保全法23条2項)を行うことができるか。
⑴ 甲社は平成2年にA、B、およびCの共同出資によって設立され、Bは、「六箇月前から引き続き株式を有する株主」である。
⑵ そして、360条の差止事由は、①取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある場合において、②当該行為によって当該株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある(同条条3項、甲社は監査役設置会社)ことである。
本件では、AとCは、Bに本件募集株式の引受けについて特段知らせず、取締役会の決議を経ている。「取締役」AとCが、法令違反行為をしたといえないか。
ア 取締役会の招集通知(368条1項)は、取締役の取締役会の準備、出席による意見表明の機会を確保するための重要な手続きである。本件ではこれが取締役の1人であるBになされていない以上、募集株式の発行について取締役会の決議は無効である。
イ そして、本件募集株式の引受けの価額は1億5000万円にも及ぶ。本件募集株式の引受けは、「重要な業務執行の決定」(362条4項柱書)にあたり、有効な取締役会決議が必要だったのではないか。
(ア)重要な業務執行に当たるか否かについては一義的に決まるものではなく、当該財産の価額、その会社の総資産等に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきである。
(イ)本件では、払込金額の総額は1億5000万円であるから、甲社の資本金の額の2分の1、資産総額の10分の1を占め、株式の払込金額自体の甲社の資本金や資産規模に占める割合が高い。また、金融支援目的での募集株式の引受けは通例的取引ではない。さらに、財務状況が悪化している乙社の株式を取得保有するリスクは高く、これらを総合考慮すると本件募集株式の引受けは甲社において重要な業務執行に当たる。
(ウ)よって、本件募集株式の引受けは、「重要な業務執行の決定」にあたり、有効な取締役会決議が必要だった。
ウ また、本件募集株式の引受けは、Cが代表取締役を務める乙社を相手方とする取引である。本件募集株式の引受けは、直接取引(356条1項2号、365条1項)にあたり、Cは、甲社の取締役会において、取引に関する重要な事実を開示したうえで、その決議を得なければならかったのではないか。
(ア)明確性の見地から、直接取引該当性は形式的客観的に判断するべきであり、「第三者のために」とは、取締役が第三者を代理代表して取引を行う場合をいう。
(イ)本件では、Cは乙社を代表し、甲社が乙社の募集株式を引受ける旨の合意をしている。
(ウ)よって、本件募集株式の引受けは、直接取引にあたり、Cは、甲社の取締役会において、取引に関する重要な事実を開示したうえで、その決議を得なければならかった。
イ、ウで述べた通り、本件では取締役会の開催が必要だったにもかかわらず、アのように取締役会は無効である。よって、Cはが甲社の取締役会において、取引に関する重要な事実を開示しなかった点、AとCが取締役会の有効な決議を経ずに本件募集株式の引受けをしようとしている点において、法令違反行為があるといえる。
⑶ 甲社に「回復することができない損害」が生じるおそれがあるといえるか。
ア たしかに、甲社の支援により乙社の業績が上がれば、支出を上回る株式の価値の上昇が見込まれることとなるから、本件の支出は回復可能な損害と考えることもできる。
しかし、キャッシュ・フローが悪化している甲社にとって1億5000万円もの金銭の流出は甲社の存続に関わりかねないうえ、乙社の財務状況が甲社の支援の甲斐なく改善しなければ乙社株式の価値は取得原価を大きく割り込み、回復することも望めない。
イ よって、回復することができない損害が生じるおそれがあるといえる。
⑷ 以上から、Bは、AおよびCに対し、違法行為差止請求権を行使できる。
以上