5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
1. ①の適法性
Qらが甲の許諾なく甲方に立ち入る行為は、「捜索」そのものではないが、本来的目的達成に必要な付随的措置として行える。
一方、222条1項・110条が、被処分者に対する令状呈示を義務付ける趣旨は、手続の公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮することにある。そのため、令状の執行に着手する前に呈示するのが原則である。
もっとも、事前に捜査機関が強制処分を行う旨を告げ、令状を呈示することで対象者に処分実行の動きを察知されると証拠隠滅行為に出るおそれがあるなど、処分の目的達成に支障が生じるやむを得ない具体的事情がある場合、処分着手後に令状を呈示しても、適正・公正の担保という本来の趣旨・目的が害されない限り、適法と考える。
本件においては、捜索自体を開始するに先立って令状が呈示されてはいるものの、令状呈示に先立ち、なだれ込むように甲方玄関から甲方居間に立ち入っているから、執行に着手する前の令状呈示がない。そして、Qらは玄関ドアが開くと同時に甲方の中に入っていったが、その前にドアを開けた甲に対して令状を呈示してから甲方に立ち入れば足りるとも思える。
しかし、そうすれば甲が本件小包みを受け取ったのち再び鍵を閉めて籠城し、その間に覚せい剤を隠滅することが想定される。覚醒剤はトイレに流すなどして極めて容易に隠滅できること、甲が2時間20分以上張り込んでも、本件小包の受取以外にドアを開けていないこと等を踏まえると、処分の目的達成に支障が生じるやむを得ない具体的事情があるというべきである。
そして、Qらは甲方に立ち入って間もなく、捜索自体を開始するに先立って令状を呈示しているから、甲としては、捜索対象範囲や差押対象物件について監督でき、適正・公正の担保という本来の趣旨・目的は害されていない。
よって、①は適法である。
2. ②の適法性
甲方という「場所」に対する令状に基づき、令状には明記されていない、本件小包という「物」を捜索することができるか。222条1項の準用する102条は、捜索の対象として「身体」、「物」、「場所」を書き分けているから、これらを捜索するには、それぞれ別個の令状を要するとも思え、問題となる。
同条が「場所」と「物」を書き分ける趣旨は、裁判官が個別に「正当な理由」(憲法35条1項)を判断するのを確保し、捜査機関の捜索権限を裁判官が事前に「正当な理由」ありと認めた範囲に限定するところにある。
ここで、「場所」に対する捜索令状の発付にあたり、裁判官は「場所」のプライバシー権の侵害について「正当な理由」の存否を判断する。「場所」に存在し、同一の管理権に属する物についての利益は、上記権利利益の総体に包含されているから、令状裁判官はかかる利益の制約も含めて当該「場所」を捜索する「正当な理由」を判断しているといえる。
よって、「場所」に存在し、同一の管理権に属する物を捜索できると解する。また、令状発付後、捜索にいつ着手するかは捜査機関の判断によるので、裁判官は令状の「有効期間」(219条1項、規則300条)全体を対象に当該捜索「場所」に「差し押さえるべき物」が存在する蓋然性があるかを判断しているから、上記要件を満たすかは処分実行時点を基準に判断する。そのため、捜索開始後に「場所」に持ち込まれた物にも令状の効力は及ぶし、物が搬入されるのを待って捜索をすることも妨げられない。
本件小包は、甲方あてに届いた荷物であり、処分実行時に甲方に存し、甲方の管理権者と同一の管理権に属することが明らかである。
よって、本件小包は捜索対象場所であるから、これを開封する行為は、捜索として適法である。
以上