8/11/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2022年 商法
設問(1)
Dは「監査役」としてA(「取締役」)が連帯保証契約を締結する行為の差止め(会社法(以下略)385条1項)をすることが考えられる。
1. 法令違反
⑴ 本件連帯保証契約が間接取引(365条1項、356条1項3号)に該当しないか。
ア 利益相反取引を規制する趣旨は、取締役個人と会社の利益が衝突する場面において当該取締役が自己又は第三者の利益をはかる危険から会社の利益を保護する点にある。そのため、「利益が相反する」かどうかは、会社の利益保護の見地から、取締役・会社間の実質的な利益衝突の有無により判断する。
イ 連帯保証契約を締結した場合、乙社が債務不履行に陥った場合、甲社が債務を負担しな. ければならない。乙社はAおよびその家族が発行済み株式を保有しているため、甲社が連帯債務契約に基づき債務を履行するのは乙社、そしてその株主であるAにとって利益となる。他方、甲社は乙社の債務を履行した場合に財産的出捐を伴う。よって、甲社とAの利益が実質的に対立している。
ウ したがって、「利益が相反」するといえ、間接取引に当たる。
エ 以上により、取締役会の承認が必要(365条1項、356条1項3号)であるが、Aは承認 を得ずに行おうとしているため、法令違反行為をするおそれがある(①充足)。
⑵ 多額の借財(362条4項2号)該当性につき検討する。
ア 保証も債務を負担するという意味で「借財」にあたるところ、「多額」かどうかは当該借財の額、借財の額が会社の総資産・経常利益に占める割合、借財の目的などに照らして判断すべきである。
イ 保障の範囲は1億円とそれ自体額が大きいことに加え、甲社の総資産(20億円)の5%、さらに年商(1億円)にも匹敵する額である。加えて、降車は本件連帯保証契約によって特段の利益を受けるわけではない。
ウ よって、1億円の債務の保証は「多額」であると言える。したがって、取締役会による 決定が必要であるが、これをせずにAが独断で同連帯保証契約を締結しようとしており、法令違反行為をするおそれがある。
2. 「著しい損害が生じるおそれ」
「著しい損害」は損害の規模に加え会社の規模、経営状態も考慮して判断する。上記のように、1億円はそれ自体額が大きく甲社の総資産の5%、年商に匹敵する額である。さらに、甲社は10年間本業が赤字である。そのため、1億円の損失は、経営状態のさらなる悪化にもつながりかねず、会社にとって大きな損失といえる。したがって、「著しい損害が生じるおそれ」もある。
3. よって、Dによる差止めは認められる。
設問⑵
1.Aが甲社に対して423条1項の責任を負うか、そして責任追及の方法が問題となる。
2. 423条1項責任
本件の連帯保証契約は間接取引に当たり、Aは「当該取引をすることを決定した取締役」(423条3項1号)に当たるため、任務懈怠が推定される。そしてかかる推定を覆す事情もない。
そして、甲社は借入金の8,000万円を支払っているので、「損害」が認められる。
さらに、上記損害はAが連帯保証契約を締結しなかったら発生していなかったから、任務懈怠と損害の因果関係も認められる。
しかも、AはBらの反対をおそれて取締役会に諮らなかったのだから、任務懈怠について少なくとも過失が認められる。
よって、Aは甲社に対し423条1項責任を負う。
3. 責任追及の方法
甲社は非公開会社であり、「株主」であるEは、当該責任追及訴訟の提起を会社に請求できる(847条1項、2項)。60日以内に会社が責任追及の訴えを提起されない場合は、Eが会社のためにかかる訴訟を提起できる(847条3項)。第2 ②EがAに対し、429条1項に基づいて損害賠償請求ができるかが問題となる。
上述のように、任務懈怠は認められる。
429条1項の責任は第三者保護のための特別の法定責任であるから、「悪意又は重過失」は、任務懈怠についての悪意又は重過失をいう。本件では、Aは取締役会に諮るべき必要性を認識していながら、反対を恐れて諮っていないため、任務懈怠について悪意といえる。
「第三者」、「損害」について、株主が被った間接損害は株主代表訴訟にて回復できることから、間接損害を被った株主は特段の事情がない限り「第三者」には当たらない。本件では、Eが被るのは会社財産の流出に伴う株価の下落によって持株の価値が下落するという間接損害である。そして、損害が生じた原因は保証債務の履行であり、少数派株主の締め出しのように特定の株主を狙い撃ちにしたものではなく、株主代表訴訟の提起を妨げる事情も存在しないから、特段の事情も認められない。
よって、Eの請求は認められない。
以上