10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2021年 民事訴訟法
設問1
1. Xの反論の趣旨
Xは、Yが甲訴訟において提出した600万円の請負代金債権を自働債権とする相殺の抗弁は乙訴訟において訴求されているため、142条に違反し不適法であると反論する。もっとも、相殺の抗弁の提出は「訴えを提起」するものではないため、142条を直接適用することはできない。そこで、142条が類推適用できるかが問題となる。
⑴ 142条の趣旨は、同一の権利が訴求されることで、①応訴を強制される被告の煩、②既判力の矛盾抵触、③審理の重複による訴訟不経済を解消する点にある。そして、相殺の抗弁には既判力が認められている(114条2項)ことから、既判力の相互矛盾等のおそれがある。そのため、142条を類推適用すべきと解する。
⑵ 本件では、XY間という同一当事者間において、乙訴訟で訴求されている請負代金債権と同一の債権が甲訴訟で相殺の抗弁として提出されている。そのため、甲訴訟と乙訴訟で既判力の矛盾抵触の恐れがある。そのため、142条の趣旨が妥当する。
⑶ したがって、相殺の抗弁を提出することは許されない。
2. では、裁判所はYの相殺の抗弁をどのように取り扱うべきか。
たしかに、両事件の弁論を併合すれば、矛盾判断を避けることができるため、既判力の矛盾抵触を回避できる。また、審理も同時に行うことで審理の重複も避けることができる。そのため、弁論を併合審理することで二重起訴の弊害を回避することができるとも思える。
しかし、弁論の分離は裁判所の専権に基づく(152条1項)。そのため、一度弁論が併合されたとしても、裁判所の専権に基づき弁論が再び分離されることがありうる。したがって、自働債権について重複審理により既判力が矛盾抵触する危険性はなおも存在する。
したがって、142条類推適用により、相殺の抗弁を提出することは許されない。このように解しても、Yは乙訴訟において債務名義を得て請負代金債権を回収することができるので、特段の不都合はない。
よって、裁判所は相殺の抗弁の提出を許すべきではない。
設問2
1.本件後訴は甲訴訟の既判力に抵触しないか。抵触
(既判力の根拠は手続保障を与えられた当事者の自己責任であり、その機能は不当な紛争蒸し返しの防止である。114条2項の場合、「相殺をもって対抗した額」について既判力が生じる。
そのため、請負代金債権のうち、「相殺をもって対抗した額」である600万円の部分の不存在については既判力が生じる。
よって、請負代金債権のうち、600万円の部分について請求することは、既判力に抵触するため許されない。
2. では、残りの400万円については請求できるか。信義則(2条)に反しないかが問題となる。
⑴ 相殺に供された債権の存否を判断するには、自働債権全体ついての審理判断が求められる。そして、相殺の抗弁についての判断は、自働債権全部について行われた審理の結果に基づくものである。そのため、特段の事情がない限り、相殺に供した債権について残部請求を行うことは、不当な蒸し返しとして信義則により排除するべきである。
⑵ 本件においては、甲訴訟にてXが1000万円の請求を行っている。そのため、Yにも1000万円の範囲で請負代金債権が存在していると主張する機会があったといえる。したがって、不当な蒸し返しではないような特段の事情は認められない。
⑶ したがって、Yの請求は信義則に反する。
3. 以上より、Yの訴えを棄却するべきである。
以上