10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2022年 憲法
第1 本件メモの禁止について
1. 本件メモ禁止は、憲法21条1項より保障されるメモをとる自由に反するものであり違憲である。
2.
⑴ まず、メモをとる自由の前提として、知る自由が21条1項により保障されているのか問題となる。
⑵ 表現の自由は、原則として対等な市民が、お互いの思想・意見を自由に交換する情報流通を前提にしている。しかし、現代では情報の「送り手」であるマスメディアと情報の「受け手」である一般国民との分離・固定化が顕著になり、しかも、情報が社会生活において持つ意義も、飛躍的に増大した。
そこで、情報の自由流通という 21条1項の趣旨を全うするため、表現の自由を「受け手」の側から再構成し、表現の受け手の自由を保障するためそれを「知る権利」と捉えることが必要である。
よって、知る自由は21条1項によって保障されていると考える。
⑶ そして、メモをとる行為を含む、情報等に接し、これを摂取する自由は、表現の自由・知る自由の派生原理として当然に導かれるところであり、メモをとる行為は21条1項により保障されている。
3. もっとも、これに対する反論として、メモをとる自由について論じたレペタ事件判決では、「筆記行為の自由は、憲法 21 条 1 項の規定の精神に照らして尊重されるべき」と述べるに留まり、憲法上の保障までを認めたものではないとの主張が考えられる。
しかし、メモをとる自由は、自ら見聞した事項を記憶・記録するために極めて有用な手段なのであって、知る自由と密接に関連すると共に、これに強く資するものであることから、知る自由と同様に21条1項の保障を受けるものと考えるべきである。
4. 以上より、本件メモをとる行為も21条1項によって保障されると考える。
5. そして、裁判所よりメモをとる行為を禁止されている以上、上記権利への制約が認められる。
6. 上述の通り、メモをとる自由は知る自由という表現の自由の有する自己統治の価値と自己実現の価値を徹底するための重要な自由に資するものであるところ、その重要性が高いにもかかわらず、裁判所はこれを完全に禁止しているのであって、制約の程度は大きい。
7. 一方、裁判所法71条は法廷の秩序維持について定めており、同条1項は法廷の秩序維持は裁判長によって行われるべきこと、また同条2項は秩序維持のために必要な処置を採ることなどを規定している。これは、裁判所の秩序維持については裁判官がもっとも精通していることに加え、裁判官が裁判を円滑に運営するための手段として秩序維持権限を認めるものである。そのため、裁判官は上記秩序維持権限の1つとして、法定内の行為に対する制限について広範な裁量を有している。
8. もっとも、本件のようにメモをとる行為についての制約をする場合、メモをとる行為自体が法廷の秩序を乱す恐れは極めて低いといえることから、上記裁量は厳格に統制され運用されるべきである。
9.
⑴ そこで、本件メモをとる行為への制約は、それを許可することによって、被告人や証人の萎縮を招き、又はそのプライバシーを害する等して、法定内の秩序を乱す恐れが高度の蓋然性をもって認められる場合に限られると考えるべきである。
⑵ 本件では、確かにメモが分析され論文となり、その評価が高い場合にはホームページへ掲載されるといった恐れがあることは否定できず、被告人や証人のプライバシーを害することもありえると考えられる。もっとも、メモはその性質上、会話の全てを記録することは不可能なのであり、裁判について完全な再現性を持ってこれを分析することはできないのであるから、被告人や証人のプライバシーを侵害する程度は低い。
また、ホームページへの掲載は論文が評価されることを前提としていることに加え、そうなった際に基礎データとして法定内の会話が公開されるという不利益も、あくまでその可能性があるというに留まり、通常評価された論文を生み出すことは困難であるし、また法定内の会話の公開を行わないよう要請することも可能なのであるから、このような想定のみの抽象的危険性では、上記高度の蓋然性を満たすことはない。
10. よって、メモをとる行為を禁ずることは違憲である。
第2 本件録音不許可について
1. 録音は、法廷内における会話を機械によって記録するという行為であるが法廷内における会話を記録する点でメモと同様の性質を有しており、知る自由に資する性質を有するものである以上、21条1項の保障を受けるものである。また、これについて禁止されている点についても同様である。
2. もっとも、反論として、録音はメモと異なり、法定内での会話を完全に記録することが可能であることから、萎縮効果及びプライバシー侵害の恐れがメモより格段に高いという主張が考えられる。そのため、前述のように、法定内における秩序維持権限について特段の限定を付すことは必要とせず、裁判所に法定内行為の制約につき広範な裁量が認められるのである。
3.
⑴ よって、録音禁止行為が裁判所に認められた法定内秩序維持権限の裁量を逸脱しているような場合には、違憲となると考える。
⑵ 論文がホームページに掲載又は基礎データの公開等により、被告人や証人の萎縮効果及びそのプライバシーが侵害される恐れがあることはやはり同様である。また、メモと異なり、完全な記録が可能であることから、被告人や証人への萎縮効果は他の行為よりも強く、これが公開された際のプライバシー侵害の程度も比較的大きい。
もっとも、上記の通り、録音は知る自由という憲法上の重要な権利に資するものである以上、その保障の徹底を図るべきである。また、上述の通り、そもそも論文がホームページに公開される可能性が高いものとはいえないことに加え、論文にはあくまで「分析の結果」を掲載するに留まるのであるから、法定内の会話それ自体が詳細に明らかにされるものではない。そのため、録音によるプライバシーの侵害の程度は大きくない。さらに、基礎データの公開についても、録音した音声自体の公開を禁止することによってプライバシー侵害の危険は十分に防止でき、また、禁止した旨を公判廷の中で明らかにすれば被告人らの供述の萎縮を避けることも可能なのである。そのため、本件で右措置を採ることなく、またそのような措置を採れるか検討することも無く重要な権利に由来する録音という行為を禁止したことは、考慮すべき事情を考慮しないことによってその内容が社会通念上著しく妥当性を欠く場合といえ裁量権を逸脱するものであって違憲である。
4. 以上より、本件録音不許可も違憲である。
以上