7/21/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東京大学法科大学院2024年 民事系
設問1
1 .Cは、Bに対して、AB間の継続的売買契約に基づく売買代金支払請求を行う。
2. Aは、Bに対して継続的に原材料を販売し(555条、以下、本件契約)、売買代金債権を取得している。また、Cは、Aから、CのAに対する貸金債権を被担保債権として、担保目的でAのBに対する売掛金債権を譲り受けている。ではこれの実行により、CはAのBに対する売買代金債権を取得するか。
⑴ Aの債権回収業務の委託契約を約定解除権に基づいて解除することで、債権譲渡担保権を実行している。
⑵ まず、本件契約では譲渡禁止特約が付されていたが、譲渡制限付き債権であっても、その債権の譲渡はその効力を妨げられない(民法(以下法名略)466条2項)。
⑶ また、「法人」たるA社のC社に対する債権譲渡について、「債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされ」(動産債権譲渡特例法4条1項)、C社がB社に対して、「登記事項証明書を交付して通知」(同2項)しているから債務者対抗要件(467条1項)を備えている。
3. 次に、BはCの譲受債権については譲渡禁止特約が付されていことから、466条3項に基づいて、Cに対する債務の履行を拒絶するとの反論をすることが考えられる。
⑴ 譲受人たるCが譲渡禁止特約の存在につき悪意であるか、重大な過失がある場合には、BはCにその債務の履行を拒むことができる。
⑵ 本件では、CがAB間の契約によって生じた債権に付された譲渡禁止特約について悪意であったことを疑わせる事情は存しない。
一方、Cは金融機関という、貸し付けの専門家であり、他の業界人に比しても譲渡禁止特約の存否について高度の調査義務を負っていたといえる。その上、輸入業者と機械製造業者との関係では、そこで生じる債権に譲渡禁止特約が付されることは業界としてよくあることであった。そうすると、Cは少なくともA又はBのいずれかに対して譲渡禁止特約の有無につき聞き取り調査をし、契約書の提示を求めるなどの調査をすべきだったというべきである。
それにもかかわらず、これを漫然と怠り、何らの調査をしなかったのは、重過失といえる。
4. よって、原則として、Cの請求は認められない。ただし、「債務者」たるBが債務を履行しない場合、「第三者」たるCが「相当の期間を定めて」「譲渡人」たるAへの「履行の催告」をし、「その期間内に履行がないとき」は、3項の適用は排除されるので(4項)、Cの請求が認められる。
設問2
1. 本件後訴は、前訴の確定判決に生じた既判力に抵触する場合は許されないこととなる。そこで、まず、本件前訴の確定判決に生じた既判力に抵触するか否かを検討する。
既判力は「主文に包含するもの」(114条1項)につき生じる。これは、紛争の蒸し返し防止に必要十分な範囲である訴訟物の存否についての判断をいうと解する。2. ここで、審判対象の画定は、処分権主義(246条)が妥当する。
処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の特定、その範囲の確定、訴訟の終了を当事者の意思に委ねる建前をいう。その趣旨は私的自治の訴訟的反映にあり、機能は不意打ち防止にある。そうだとすれば、債権の一部である旨が明示されている場合には、その範囲で訴訟物は分断されると考える。なぜなら、試験訴訟の必要性から、一部であることが明示されている場合はその範囲を訴訟物であるとするのが原告の合理的意思に適う。また、被告としても、債権の一部であることが明示されていれば、残部についての請求がなされても不意打ちとはならず、前訴において残部に意義がある被告は 残部につき債務不存在確認の反訴(146条)を提起できるためである。
3. 本件でも、Cは総額が1000万円であることを明示して200万円の請求をしており、明示的一部請求として訴訟物は200万円の範囲である。
4. 既判力が生じると、前訴事実審口頭弁論終結時における訴訟物の存在又は不存在の判断に矛盾抵触する後訴当事者の主張ないし裁判所の判断を排斥するという機能が前訴当事者間において営まれる。そうすると、類型的には、既判力は、訴訟物が同一、先決、又は矛盾関係にある後訴に作用する。後訴の訴訟物は、前訴の訴訟物といずれの関係にもないため、前訴既判力は後訴に及ばない。
しかし、金銭的請求の審理は、まず債権自体が成立しているかを審理し、その後に具体的な額の算定に入る。そして、その結果債権額が一部請求額を上回るときは請求認容判決を下し、債権額が一部請求額に満たない場合は一部棄却判決、債権額が存在しない場合は請求棄却判決を下す。 そうだとすれば、数量的一部請求を全部又は一部 棄却する判決は、後に請求しうる残部が一切存在し ないことを示すものだといえる。そのため、金銭的債権の一部請求で全部棄却ないし一部棄却判決を受けた原告が残部を後訴で請求することは紛争の蒸し返しにあたり、債権全体について弁論ないし審理が尽くされなかったなどの特段の事情がない限り、信義則(2 条)により後訴は却下される。
5. 特段の事情なき本件では、後訴に既判力が及び訴えは棄却され、CはBに対し残部請求を行うことはできない。
設問3
1. 本件では、新株の発行が仮に有利発行に該当すれば、本件新株発行は必要な株主総会の特別決議による承認(会社法(以下略)199条3項、201条1項)を欠くことになり、差止め事由(210条1号)である法令違反が認められることになるため、本問の払込価額が「特に有利な金額」か否かを検討する
2. この点、有利発行規制の趣旨は既存株主の利益を保護することにあることからすれば、「特に有利な金額」とは時価を基準とした公正価格よりも低い発行価格をいい、公正価格とは、資金調達目的が達せられる限度において既存株主にとってもっとも有利な金額をいう。
3. 本件では、A社株式の市場価値は元々500円前後であったところ、業績悪化により200円まで下がっていた。しかし、D社による支援が確定しこれが公表されると、株式の価値は400円くらいまで上がっていたという。
そのため、決議直前の2ヶ月間の株式価値である400円より150円、すなわち4割程度のディスカウントをした250円という価格は既存株主の有する株式価値を大きく下げるものであって、資金調達目的が達せられる限度において既存株主にとってもっとも有利な価格とは言えない。
4. また、既存株主の有する株式価値を棄損する恐れがある本件では「株主が不利益を受けるおそれ」は認められ、210条1号の差し止め要件に該当し本件新株発行の差し止めは認められると考える。
以上