1/3/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2021年 憲法
第1問
1. 本件の年齢制限は、30歳以上の者が公務員となる自由を制約しており、22条1項に反し違憲ではないか。
⑴ たしかに、公務員となる権利は、公務への参加を意味するとして、15条1項により保障されるとする見解が存する。しかし、政治への参加を職務内容としない一般公務員については、妥当しない。そして、一般公務員が、生計の維持の観点から職務に従事している点を考慮すれば、他の職業と区別する必要はない。そこで、公務員となる権利は、職業選択の自由として同項により保障されると解するべきである。したがって、30歳以上の者が公務員という職業を選択する自由は22条1項により保障される。
そして、30歳以上の者が公務員の採用試験を受験できないため、30歳以上の者の上記自由を制約している。
⑵ 職業選択の自由についての規制は、規制の態様と規制の目的を考慮して当該規制についての立法府の裁量の広狭を明らかにすることにより判断する。
受験資格に年齢制限が課せられている理由は、公務員の雇用環境を背景に長期雇用が前提とされ、組織内において人材を育成し、その経験や能力に応じてより高い官職に就けるという人事が行われており、また国家公務員には定年制度があるため、高年齢の者を採用すると、組織内での育成期間が限られてしまう点にある。そのため、誰を雇うかについては、組織に現在する人材、個人の能力などを総合的に判断する必要がある。そのため、行政府(人事院)の裁量を広く認めるべきである。したがって、 以上より、①目的が正当で、②手段と目的との間に合理的関連性を有する場合に合憲と正当化されると解するべきである。
⑶ まず、上記規制の目的は、人事の適正な運用を行う点にあるところ、当該目的は、国家が追求することの許されない目的とは評価できない。したがって、上記目的は正当といえる(①充足)。
さらに、上記の公務員に係る雇用環境及び育成環境に鑑みれば、年齢制限を設けることは、人事の適正な運用を実現させることに資するといえ、手段と目的との間に観念上の適合性が認められる。したがって、手段と目的との間に合理的関連性が認められる。
加えて、年齢による制限であるため、誰しも20歳代のうちには受験の機会が与えられている。そのため、手段の相当性も認められる。
よって、22条1項には反しない。
2. 人事院規則8–18別表3は、国会公務員採用総合職試験に係る受験資格を「試験年度の4月1日における年齢が21歳以上30歳未満の者」と定めている。そこで、当該規定は、上記試験において、試験年度の4月1日において30歳以上の者と30歳未満の者を区別(以下、本件区別とする。)している。本件区別は14条1項に反しないか。
⑴ 「平等」(憲法(以下、略)14条1項)とは、形式的平等を意味する。もっとも、形式的平等を厳格に貫くと、却って不合理な区別を生じさせるおそれがある。そのため、「平等」は、相対的平等を意味すると解すべきである。そこで、同項の趣旨は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別を許容しているといえ、当該区別以外の区別を禁止するものである。
上記区別は、事柄の性質に即応した合理的根拠に基づく区別として許容されるか。差別の理由、差別の対象となる権利の重要性、差別的取扱いによる制約の態様、裁量の存否、広狭を考慮して判断する。
まず、後段列挙事由に関する区別か否かは、審査基準に影響を及ぼさないとの見解もある。しかし、後段列挙事由は、歴史的に差別されてきた事項について定めたものであって、特に当該事由に関する区別の合憲性の判断は慎重に行うべきと解する。また、「社会的身分」(同項後段)とは、人が社会において占める継続的な地位をいう。そのため、年齢も人が社会において占める継続的な地位に当たるため、「社会的身分」に当たる。
さらに、受験資格に年齢制限が課せられている理由は、公務員の雇用環境を背景に長期雇用が前提とされ、組織内において人材を育成し、その経験や能力に応じてより高い官職に就けるという人事が行われており、また国家公務員には定年制度があるため、高年齢の者を採用すると、組織内での育成期間が限られてしまう点にある。この様な沿革に鑑みれば、上記規制の目的は、人事の適正な運用を行う点にあるといえ、立法府に広範な裁量が認められるものである。
以上の事情に鑑みれば、①目的が正当で、②手段と目的との間に合理的関連性を有する場合に合憲と解するべきである。
⑵ そして、22条1項について論じた通り、目的が正当であり、合理的関連性も有しており、手段相当性も認められる。よって、上記規制は正当化されるため、人事院規則8–18別表3は14条1項に反せず、合憲である。
3. 委任立法の適否
人事院規則8–18別表3は、国家公務員法44条の委任に基づき制定されているところ、国会を唯一の立法機関と定めた41条に反しないか。
⑴ 「唯一」(41条)とは、国会による立法以外の実質的意味の立法は、憲法上に特別の定めが存する場合を除き、許されない旨の原則たる国会中心立法の原則を意味する。そして、我が国の憲法は、国民主権原理(1条)の下、代表民主制を採用(43条1項)しており、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(同項)と定めている。そのため、41条の趣旨は、上記議院により構成される国会に立法権を独占させることによって、国民の人権保障を確保する点にある。
他方で、社会福祉国家の要請(25条以下)を実現するためには、高度の専門知識を要するところ、当該知識は行政機関が立法機関に比して、多く有している。そこで、立法行為を行政機関に委任する必要性が認められる。加えて、73条6号但書は、委任立法の存在を予定している。もっとも、委任立法を無制約に認めれば、十分な民主的基盤を有しない行政機関の濫用によって、人権保障が不十分になるおそれが生じる。
そこで、①委任の目的及び②受任者のよるべき基準を定めた個別具体的な委任に限り、43条1項に反しないと解する。
⑵ まず、上記委任は、国家公務員採用総合職資金に関する基準の策定に関する委任である。そのため、委任の目的が、人事の適正な運用を実現する点にあることは明らかといえる(①充足)。
次に、本件委任は、「受験者に必要な資格として官職に応じ、その職務の遂行に欠くことのできない最小限度の客観的且つ画一的な要件を定める」という受任者のよるべき基準が設けられている(②充足)。
⑶ したがって、上記委任は41条に違反せず、合憲である。
第2問
本件法律は、内閣の衆議院解散権を制限する趣旨であるところ、違憲ではないか。
1. 衆議院の解散権の根拠規定を如何に解すべきか。
衆議院の解散権の根拠規定を憲法(以下、略)69条とする見解がある。もっとも、当該見解によれば、内閣の解散権を行使することができる場合が著しく限定されることとなり、妥当でない。そこで、当該見解を採用することはできない。
他方で、衆議院の解散権は、本来政治性の伴う行為であるにも拘らず、「国政に関する権能を有しない」(4条1項)天皇がこれを行うことができるのは、内閣が「助言と承認」(3条)を行う際に、解散の実質的決定を行うことにより、天皇による解散行為が形式的ないし儀礼的なものとなるためである。
したがって、内閣の衆議院解散権は、7条3号を根拠規定にすると解する。
2. 衆議院の解散権に対する制限を課すことは合憲か。
①選挙の際に直接の争点とならなかった重大な問題が生じ、任期の満了を待たずにそのことに関する国民の真意を問う必要がある場合、②国会の統一的な意思形成力に問題が生じ、内閣として責任ある政策形成を行えない様な事態が生じた場合には、解散による国民の真意を問うべき正当な理由が認められる。そこで、①又は②の事態が生じたにも拘らず、衆議院の解散を認めない旨の法律は、7条3号に反し、違憲と解すべきである。
本件法律は、「衆議院が内閣府信任の決議案を可決し、又は信任の決議案をしたときに限り」内閣の解散権行使を認める趣旨である。当該場合は、内閣と衆議院の協力関係が崩壊していると評価できる。我が国の憲法は、国民主権原理(1条)の下、代表民主制を採用(43条1項)しており、「両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(同項)と定めている。そのため、国民の代表たる議員で構成された衆議院が内閣の不信任決議を可決し又は信任の決議案を否決した場合は、国家の統一的な意思形成力に問題が生じ、内閣として責任ある政策形成を行えない様な事態が生じたと評価できる。そうだとすれば、本件法律は、解散権行使を②の場合に限定するものといえる。
よって、本件法律は、①の場合を認めないものであり、内閣の衆議院の解散権を制限する限界を超えたといえる。
以上より、本件法律は7条3号に反し、違憲である。
以上