2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2023年 憲法
1. 裁判所が本件除名を違法であり無効であると判断するか
⑴ 裁判所の審査権の限界
司法権(憲法76条1項)と団体の内部紛争について、富山大学事件は、自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争は、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自立的な解決に委ねるべきであり、裁判所の司法審査の対象にはならないとして、いわゆる部分社会の法理を採用する。しかし、この論理は、団体の性質に関係なく、団体内部の紛争について包括的に司法審査を及ばなくさせる可能性があり、裁判を受ける権利(32条)との関係で問題がある。したがって、一般的・包括的な部分社会の法理は妥当ではない。そこで、裁判所の審査権の限界を論じる上では、各団体の憲法上の権利規定などの相違に即し、かつ、紛争や争われている権利の性質等を考慮に入れて個別具体的に検討すべきである。
⑵ 政党の憲法上の位置づけ
問題となっている政党という団体の性質について見ると、憲法には政党について言及がないものの、憲法は、政党の存在を当然に予定しており、八幡製鉄事件は、国民の政治意思を国政に反映するのに有効な媒体として、議会制民主主義を支える不可欠の要素として政党を位置づけている。そして、政党は、結社の自由(憲法21条1項)を根拠とし、その結成・不結成及び加入・不加入の自由、政党活動の自由等が保障される団体である。そうすると、政党はその自主性、自律性を尊重すべき団体といえる。
また、公職選挙法(以下、当該法令名は「法」という。)は、除名に基づく当選人除外の要件として、除名届出書(法112条7項、98条3項前段)、除名手続書及び宣誓書(法112条7項、98条3項、86条の2第7項・8項、86条の3第2項)の提出以外の要件を定めておらず、当該除名が適正に行われたかを選挙会が審査すべきことは定められていない。したがって、法は、たとえ客観的には当該除名が不存在ないし無効であったとしても、名簿届出政党等による除名届に従って当選人を定めるべきこととしている。法が選挙会の審査の対象を形式的な事項にとどめている趣旨は、政党等の政治結社の内部的自立権をできるだけ尊重すべきものとしたことによる。そして、政党等から名簿登載者の除名届が提出されているにもかかわらず、選挙会が当該除名が有効に存在しているかどうかを審査するならば、必然的に、政党等の意思に反して行政権が介入することになる。
そうすると、裁判所が形式審査のみならず実体審査まで行うとすれば、それは裁判所による結社としての政党に対する介入とも思える。それゆえ、日本新党繰上補充事件は、司法審査の対象も形式的事項に限られ、除名自体の違法・無効を判断する余地はないとしている。
⑶ もっとも、政党は、結社として国家からの自由を有する一方で、選挙等により統治機構に組み込まれ、政治権力の行使に影響を与える存在でもあり、任意的な結社であることと国政運営の主要要素であることという二面性を有するうえ、憲法は、公務員の「選定」を「国民固有の権利」(憲法15条1項)とし、国会議員を国民により「選挙された議員」(憲法43条1項)としており、国会議員の国民による直接選挙を原則としているところ、かかる直接選挙の原則と抵触する場合には、政党の内部規律についての自律性を制限し、より厳しく除名処分の妥当性を審査することも許されると解する。
⑷ この点、繰上補充制度(法112条)は、政党による恣意的な除名が行われる場合には、選挙後に政党が当選人を任意に選択・変更する仕組みと評価しうるため、当選人決定における選挙人以外の者の意思の介在禁止という直接選挙の原則に反する可能性がある。そこで、繰上げ補充に関係する除名処分については裁判所の審査権が及ぶと考える。
⑸ いかなる部分につき審査権が及ぶかについては、政党による除名処分が問題となった共産党袴田事件は、政党の任意的な結社としての側面を強調した上で、政党の自主性・自律性の尊重から処分当否を原則として政党の自律的解決に委ね、外部問題についても特段の事情のない限り、政党の自主規範又は条理に基づく適正手続審査に限定されるとする。したがって、本問の除名処分は繰上げ補充により当選人の地位を得るという外部問題に関わるものであり、審査は政党の自主規範や条理に基づく適正手続審査に限定される。そこで、本件除名については、かかる処分が公明・適正に行われたかどうかについて司法審査の対象とすべきである。
⑹ 名簿作成の場合とは異なり、名簿登載者の除名は個別の人間をねらった明らかな不利益処分であるから、処分を受ける者の権利保護を優先すべきである。名簿登載者は、国会議員となりうる地位を得るという限りにおいて、単に政党内の地位を有するだけの存在ではなくなっているのであり、そのような地位を全て否定することとなる政党の行為には、特別の慎重さが求められるとしてもやむを得ない。したがって、公明・適正な除名を担保するため、少なくとも、被処分者には告知・聴聞の機会が保障されるべきである。
本件では、A党における除名手続は、当事者に口頭や文書での意見聴取の機会を与えず、当院からの除名の提案に基づき代表が決定するという簡単なものである。そして、XはA党の代表YとSNS上で口論となり、Yによって一方的にA党から除名された。したがって、本件除名は、被処分者に告知・聴聞の機会が保障されず、一方的・恣意的に行われたものであり、公明・適正なものとはいえず、違法・無効である。
よって、裁判所は、本件除名を違法であり、無効であると判断すべきである。
以上