3/31/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
早稲田大学法科大学院2023年 刑事訴訟法
1. 本件では、KがXを現行犯逮捕(憲法33条・刑事訴訟法(以下略)212条1項・213条)しているため、検察官から勾留請求を受けた裁判官は、勾留の理由(60条・207条1項、280条)と勾留の必要性(87条1項参照)が認められる限り、裁判官は勾留を認めてよいとも思える。
2. もっとも、勾留請求が認められるためには、逮捕が先行することが必要である(逮捕前置主義。207条1項本文)。
⑴ 207条1項本文の趣旨は、逮捕・勾留という2段階の要件審査による司法的抑制の徹底にあることに照らし、逮捕前置主義は、前置される逮捕が適法であることを当然の前提としているというべきである。ただし、逮捕手続に軽微な違法があったに過ぎない場合にまで勾留請求が認められないと解しては、捜査の必要性を害する。そこで、将来の違法捜査の抑止の見地からも、逮捕手続に時間制限(205条)違反にも匹敵するような重大な違法がある場合に限り、勾留請求は認められないと解する。
⑵ 本件では、KによるXの現行犯逮捕が違法でないか、違法である場合には重大な違法かが問題となる。
ア 法が現行犯逮捕につき令状主義の例外を定めた趣旨は、被逮捕者が犯人であることが逮捕者にとって明白であるところ、司法判断を経なくても正当な理由なき逮捕がされるおそれが小さい点にある。そこで、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わつった者」といえるには、①特定の犯罪が行われていることまたは行われたことに加え、被逮捕者が犯人であることが逮捕者にとって明白であること、及び②犯行の現行性または犯行と逮捕の着手との時間的接着性が必要と解する。
イ 本件では、Kが逮捕に着手したのはVが交番に来た後の午後8時過ぎ頃であり、犯行はVの供述によれば午後7時50分頃に行われたのであるから、その間は10分程度であり、犯行と逮捕の着手との間の時間的接着性はあるといえる(②充足)。
また、8月18日午後8時頃にVが交番に来て、同日午後7時50分頃にW大学キャンパス正門付近で恐喝の被害を受けた旨、および犯人の人相・年齢・服装についてKに対して説明した。そして、かかるVの供述に基づきKがW大学キャンパス正門付近を捜索したところ、Vが供述した犯人の人相・年齢・服装に合致するXを発見した上、VがXをみて犯人に間違いない旨述べたため、KはXを恐喝の現行犯として逮捕している。確かに、犯行から10分後という犯行時から近接した時点においてVが供述した犯人の人相・年齢・服装と、Xの人相・年齢・服装が合致している他、被害者であるVがXが犯人である旨明言していることからすれば、逮捕者たるKにとって恐喝という特定の犯罪が行われたことに加えXが犯人であることが明白といえるとも思える。
しかし、Kは、XがVを恐喝したという犯行を現認していない。また、Vが供述したのが犯行直後であるとしても、Vの供述が非常に詳細であるなどVの供述の信用性が高いと認められる事情はない。そして、仮にVの供述の信用性が高いとしても、犯人と同様の人相・年齢・服装の者が午後8時30分頃という深夜でも早朝でもない時間帯に路上にいることは稀有のことではないため、それだけで犯人性を肯定できない。さらに、VがXをみて犯人に間違いないと述べたのは犯行から既に40分が経過しているところ、Vの記憶間違いの可能性もある。そうだとすれば、犯行を現認していないKにとってXが犯人であることが明白とはいえない(①不充足)。よって、Kによる逮捕は、現行犯逮捕としての要件を満たさず違法である。
ウ では、かかる違法が重大といえるか。
確かに、逮捕の時点は8月18日午後8時30分、勾留請求の時点は8月19日午後4時であるところ、時間制限の要件は満たす(203条以下)。
しかし、前述同様、Vの供述の信用性は高いとまではいえないし、Kは犯行を現認しておらず、「長期三年以上の懲役刑に当たる罪」である恐喝罪(刑法249条)罪を「犯したと疑うに足りる充分な理由がある」とはいえない。また、Xは犯行を否認しているだけで逃走を図ったり暴れたりしているわけではなく、「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき」といえるような事情は存在しない。逮捕状を求めることができない急速を要する事情があるわけでもない。とすれば、緊急逮捕(210条)の要件を満たしていたともいえず、およそ逮捕の要件を充足せず、手続的瑕疵にすぎないともいえない。
よって、令状主義に反するという重大な違法がある。
3. 以上より、裁判官は、検察官による勾留請求を却下すべきである。
以上