11/30/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東京大学法科大学院2022年 民事系
設問1
1. XはZに対し、売買契約(民法(以下法名略)555条)に基づき、甲土地所有権移転登記請求を行うことが考えられる。
2. 上記請求には売買契約の締結を要するところ、本件では甲土地の売買契約はYZ間で締結されており、XがZに対し請求をするためには売買契約の契約者としての地位がXに移転している必要がある。そこで、Xとしては539条の2に基づき、契約者としての地位がYからXに対し移転していると主張する。
3. 一方、Zの反論として、同条は「契約の相手方がその譲渡を承諾した」ことを要するものであるから、契約の相手方の承諾がない限り同条の効果は発生しない旨を主張する。
本件では、契約の相手方たるZの承諾がないのであるから、同条の効果は発生せず、Xに契約上の地位は移転しない。
4. よって、Xの請求は認められない。
設問2
1. XはZにより本件契約書の真正を争われているため、その文書の真正を証明することを要する(民事訴訟法(以下法名略)228条1項)。
⑴ 「本人の(略)押印」とは、本人の意思に基づいた押印であることを意味する。文書中に本人の印章の印影が顕出された場合には、反証がない限り、その押印が本人の意思基づく押印であることが事実上推定される。なぜなら、日本では印章は本人等が大切に保管使用するものであり、他人が勝手に使用することはないという経験則が存在するからである。その結果、「本人(略)の押印がある」という要件を満たすため、228条4項の適用により、文書全体が本人の意思に基づき作成されたことが推定できる。
⑵ したがって、Xは本件契約書にZの印章が存在することにつき主張立証を行うとともに、Zの反対証明活動に対して適切な反論をするべきである。
2. Zとしては、押印がZの意思に基づかないという主張を展開すると考えられる。上記の二段の推定はあくまで「推定」であるから、この推定を覆すための反対証明活動は反証で足りる。具体的には、印章の支配が本人の意思に基づかずに移転した可能性、たとえば、AがZの印章を簡単に持ち出すことができたという事実や、目的外使用の可能性、たとえば他の目的で印章を預託していた事実があれば、それらを主張することが考えられる。
設問3
1. X社の取締役(「役員」)であるBは、X社に対し会社法(以下略)423条1項の責任を負うか。
2. P社の事業は、いわゆる競業取引(356条1項1号)に当たらないか。当たる場合には取締役会の承認を得る必要がある(365条1項、356条1項柱書)が、本件ではBはP社の事業についてX社に報告していないため問題となる。
⑴ まず、Bは取引の主体(「取締役が」)といえるか。BがP社の役員ではないため問題となる。
356条1項1号の趣旨は、取締役が会社の利益を犠牲にして会社以外の者の利益を図る行為を防止する点にある。そのため、役員でなくとも、事実上会社を主宰している場合には、取引主体、すなわち「取締役が」に当たると解するべきである。
本件では、BはP社の株式の過半数を有しており、取締役の選解任(329条1項、339条1項、309条1項)も可能である。加えて、Bの妻であるCがP社の代表取締役であるから、Cを通じて会社に影響を及ぼすこともできる。そのため、BはP社における事実上の主宰者であると評価できるのである。よって、これを満たす。
⑵ 利益相反取引規制とは異なり、競業取引規制は間接取引を規制していない。そして、前述の条文の趣旨も考慮すると、そのため、「ために」とは、経済的利益の帰属主体を基準として判断するべきである。
本件では、BはP社の株式の過半数を有するから、P社が挙げた利益の半分以上がBに帰属する。
⑶ 上述の356条1項1号の趣旨から、「株式会社の事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている取引と目的物および市場が競合する取引であると解するべきである。本件では、Pは弁当販売を行う会社であり、Xは冷凍食品の販売を行う会社であることから、一見すると競業関係にあるようには思えない。しかし、弁当配送と冷凍食品の配送とでは、簡易的な食事を宅配により提供するという点において一致しているため、目的物が競合しているといえる。加えて、対象地域も甲土地周辺であるから、市場も競合している。そのため、P社の事業は、「株式会社の事業の部類に属する取引」にあたる。
⑶ したがって、P社の事業は競業取引に当たるため、Bが取締役会の承認を得ていないことについて任務懈怠が認められる。
3. BはP社の株主であるから、P社の事業の利益である年間5000万円のうちの株式保有割合の分だけ利益を得る。よって、423条2項により、上記の金額が損害と推定され、かかる推定を覆す事実関係もない。
4. 加えて、因果関係も認められる。またBは取締役会の承認を得る必要があるにもかかわらずこれを怠っているから、少なくとも過失が認められる。
5. 以上より、Bは423条1項の責任を負う。
以上