7/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2024年 民法
第1問 問1
1. Xは、Bに対し、譲渡担保権に基づいて、甲をAの工場に戻すよう請求する。
2. Xは、Aに300万円の貸付け(民法(以下略)587条)をした際、その担保としてAから甲の譲渡を受けており、Xは譲渡担保目的の所有権を取得している。
そして、弁済期経過前に、設定者たるAが、Bに対して、Bに対する500万円の貸金返還債務の担保として譲渡担保権を設定し、同担保権が実行され、Bに甲が移転している。
ここで、譲渡担保は、債権担保のために目的物の所有権(206条)を移転する(176条)ものである。そこで、所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められると解する。そのため、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物を処分する権能を取得し、この権能に基づいて帰属清算又は処分清算の方法により換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができる。
そうすると、弁済期前に設定者がした目的物の譲渡は、設定者を起点とした二重譲渡類似の関係に立つ。譲渡担保権者が対抗要件を備えている場合、譲渡担保権者が確定的に譲渡目的の所有権を取得するから、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。
本件で、Xは、Bの占有改定(183条)に先立って、甲の占有改定による引渡しを受けている。占有改定も「引渡し」(178条)の一つであるから、XはBに先立ち対抗要件を具備したといえる。
3. もっとも、Bは甲を即時取得(192条)したといえないか。
⑴まず、即時取得(192条)にいう「占有を始めた」に占有改定は含まれない。即時取得は、真正権利者の権利喪失という犠牲の下、譲受人の信頼を保護する制度であるところ、占有改定は譲渡によって不利益を受ける譲渡人の占有を通して譲渡が公示されるという点で、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるような占有を取得したとはいえないから公示の信頼性が低く、保護に値するほどの強い物的支配を確立しているとはいえないからである。
Bが2021年7月1日に、占有改定による甲の引渡しを受けたことは「占有を始めた」に当たらないので、同行為により甲を即時取得することはない。
⑵また、2022年11月2日に、甲の引渡しを受けたことが占有を始めた」に当たるとして、即時取得したといえないか。
このとき、Bは、AがXに対して甲を既に譲渡していたことを知るに至っていたから、「善意」の推定(188条)が崩れ、即時取得は認められない。
4. 以上より、Xの上記請求は認められる。
問2
1. Xは、Aに対する貸金債権を被担保債権として、AのYに対する保険金請求権に物上代位し、優先弁済を受けることができるか。
2. ⑴物上代位は、優先弁済的効力を有する担保物権に基づき認められるところ、譲渡担保は、優先弁済的効力を有する担保物権であるから、304条1項類推適用により、譲渡担保権に基づいて物上代位し得ると解する。
⑵また、保険金請求権は保険契約に基づき保険料支払の対価ともいい得るが、保険料と保険金では価値の差が大きすぎるため、実質的には目的不動産の価値が具体化したものといえる。よって、保険金請求権も「滅失…によって」所有者「が受けるべき金銭その他の物」に当たると解する。本件保険金請求権も物上代位の対象となる。
3. もっとも、Aが、本件保険金請求権についてBのために質権を設定(362条1項)し、その旨をYに対して内容証明郵便によって通知している(364条、467条)ところ、かかる通知が「払渡し又は引渡し」に当たれば、Xは物上代位できなくなる(304条1項但書類推適用)。
ここで、抵当権に基づく物上代位の場合であれば、対抗要件ある質権の設定は「払い渡し又は引渡し」に当たる一方、先取特権に基づく場合には、これに当たらないと解される。これは、抵当権と先取特権とでは公示の程度に差異があり、抵当権の場合、第三者に対して、その効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、「差押え」によってこれを保護する必要はないのに対して、先取特権に基づく場合には、公示が及んでいないから、「差押え」によって債権の譲受人などの第三者を保護することも含むと解されるからである。動産譲渡担保は占有改定によって公示が十分になされているといえるから、抵当権に準じて、「払渡し又は引渡し」には質権設定通知が含まれないと解する。
よって、上記通知は、「払渡し又は引渡し」に当たらないので、Xは物上代位し得る。
4. 以上より、Xは、「差押え」(304条1項但書類推適用)をすれば、上記優先弁済を受けることができる。
第2問 問1
1. 前段
Aは、甲土地を占有するCに対して、所有権に基づき、甲土地の明渡しを請求することができるか。
⑴契約①によりAの甲土地に対する所有権はBに移転しているが、Aは、催告の上、2023年8月31日に、Bに対し、契約①を解除する旨の意思表示をした(540条1項、541条)。そして、債権者を双務契約による拘束から解放するという解除制度の下からは、解除によって契約は当初から存在しなかったことになり、契約から生じた債権債務は遡及的に消滅する(直接効果説)。そのため、上記解除により、甲土地の所有権はAに存することとなりうる。
⑵しかし、上記解除の前の2023年3月20日に、BC間で契約②が締結された。そのため、Cは「第三者」(545条1項ただし書)として保護されないか。
上記解除制度の趣旨からすれば、同項ただし書は解除の遡及効を制限した規定であると考えられる。そこで、「第三者」とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者というと考える。
本件では、上記解除の前の2023年3月20日に、BC間で契約②が締結されている。契約②は、甲土地を建物所有目的で賃貸するというものであり、契約②によりCは甲土地の借地権を取得している(借地借家法2条1号)。そのため、Cは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者に当たる。
⑶よって、Cは「第三者」として保護される。
⑷以上より、Aは上記請求をすることができない。
2. 後段
⑴同年10月以降の各月末に、Aが、Cに対して、翌月分の賃料の支払を請求することができるためには、Aが賃貸人たる地位を有し、それをCに対抗できることを要する。
⑵遡及効は技巧的な法解釈にすぎず、実質的には、解除時点において復権的物権変動を肝炎できる。そのため、解除により、BからAに対して甲土地の所有権が移転したとみることができる。Cは、前述の通り、「借地借家法10条…の規定による賃貸借の対抗要件を備えた」者であるから、上記の解除によって、甲土地の賃貸人たる地位は、BからAに移転する(民法605条の2第1項)。
⑶しかし、Aは、Bから甲土地の登記を自己に移転させていないから、かかる地位の移転をCに対抗することができない(同条3項)。
⑷以上より、Aは上記請求をすることができない。
問2
1. Aは、Bに対して、解除に基づく原状回復請求権として甲土地の明渡請求と所有権移転登記の移転登記請求を行う(545条1項本文)ことができる。
2. Bは、Aに対して、解除に基づく原状回復請求権としてAに支払った1500万円の返還請求と、その利息である45万円の返還請求(同条2項、404条1項、2項)を行う。
これに対し、Aは、Bに対する、Bが本件解除までに取得した同年4月分から8月分までの賃料である100万円の返還請求権(545条3項、88条2項)及び、不当利得(703条)に基づいて、解除後にBが受領した同年9月分、10月分の賃料である40万円の返還請求権、甲土地の減価分である700万円の価額償還請求を自働債権として、上記1545万円と対当額で相殺する(505条1項本文)と主張できる。
よって、Bの上記請求は825万円の限度ですることができる。
以上