3/25/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2025年 民事訴訟法
第1問
1. 民事訴訟における直接主義とは、口頭弁論に関与した裁判官が判決内容を決定するというもので、民事訴訟法(以下、法令名略)249条1項が規定するものである。
2. 249条2項が規定する、いわゆる弁論の更新を行った場合には、単独裁判官Aが審理して口頭弁論を終結した事件について、別の単独裁判官Bが判決を言い渡すことが適法とされる。裁判官の転勤その他の事情によって裁判官が審理の途中で交代せざるを得ないことがあり、その場合に直接主義を徹底することは訴訟経済に反するためである。
第2問
1. 設問1
⑴訴訟物は、当事者の攻撃防御の目標及び裁判所の審判の対象である。訴訟物の個数・異同の判断基準について、明文の規定はないが、訴訟物の存否について既判力が生じる(114条1項)ことから、基準の明確性が要求される。そこで、訴訟物の個数・異同は、実体法上の請求権を判断基準とする。
⑵物的損害の性質は回復可能な財産権の損害であるのに対して、人的損害の性質は不可逆な生命身体の損害であるから、両損害の性質は大きく異なる。また、民法の規定上、710条を人的損害等の「財産以外の損害」の賠償の規定、民法709条を物的損害等の財産権の損害の賠償規定と読むことが可能であり、両賠償請求権の根拠条文は異なるといえる。さらに、民法が物的損害の消滅時効を3年、人的損害の消滅時効を5年と定めている(民法724条の2)のは、訴訟物が別々であることを前提とするものと考える。
したがって、物的損害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権と人的損害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とでは、実体法上の請求権が異なり、訴訟物を異にすると考える。
⑶よって、前訴の訴訟物は、人的損害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権であると解する。
2. 設問2
⑴前訴の「既判力」(114条1項)が後訴に作用するか。作用するとすれば、後訴において、Xが本件バイクの損傷を理由とする損害の発生等を主張することは、前訴の確定判決の既判力に抵触しうる。
ア 「既判力」とは前訴判決の後訴における通用力ないし拘束力をいう。既判力は「主文に包含するもの」につき生じる。「主文に包含するもの」とは、基準の明確性の観点から、訴訟物の存否についての判断をいうと解する。そして、既判力が生じると、前訴事実審口頭弁論終結時における訴訟物の存在又は不存在の判断に矛盾抵触する後訴当事者の主張ないし裁判所の判断を排斥するという機能が前訴当事者間において(115条1項1号)営まれる。そうすると、類型的には、前訴判決の既判力は、前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が①同一関係②先決関係③矛盾関係のいずれかであるときに後訴に作用する。
イ この点、前訴の訴訟物は、人的損害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権である。他方、後訴の訴訟物は、物的損害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権である。
そのため、前訴と後訴の訴訟物は①から③のいずれにもあたらない。
ウ よって、前訴判決の既判力は後訴に作用しない。
⑵以上より、後訴において、Xが本件バイクの損傷を理由とする損害の発生等を主張することは、前訴の確定判決の既判力に抵触しない。
以上