2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2022年 民法
1. AのCに対する甲の所有権(206条)に基づく返還請求権としての動産引渡請求をCは拒むことができるか。
⑴ まず前提として、甲の所有権を有していたBとAは売買契約(555条)を締結し甲の所有権の移転を受けており(176条)、甲は現在Cが占有しているためAの請求の要件は満たされている。
⑵ そこで、Cとしては甲につき即時取得(192条)が成立しその所有権を原始取得したとして、Aは甲の所有権を喪失した旨の抗弁を主張しAの請求を拒むことが考えられる。Cのかかる主張は認められるか。
ア 即時取得の要件は①「取引行為」、②取引行為に基づく「占有」の開始、③その占有が「平穏」かつ④「公然」とされたこと、⑤「善意」⑥「過失がない」こと、である。もっとも、③④⑤については186条1項により推定される。また、⑥についても188条により前主の適法な占有が推定されるため、占有取得者は動産の前主に動産の所有権があることについて「過失がない」と推定される。
イ そこで、①②について検討すると、CはBから売買契約という取引行為に基づき占有改定の引き渡しを受けている。もっとも占有改定は外観上の引き渡しを伴わずに占有を始める引き渡しであるところかかる場合でも「占有」を開始したといえるか。
(ア)即時取得は真の権利者の物に対する権利を喪失させ譲受人の信頼を保護する制度であり、保護に値するほどの物的支配の確立がなくして譲受人を保護すれば真の権利者の権利や動産取引の安全を害する。そこで一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるような占有取得方法でなければ、即時取得の「占有」の開始に当たらないと解する。
(イ)そして、占有改定は取引行為について利害関係を有する譲渡人を通して物の占有が公示されるため公示としての信頼性が低い。また、占有改定は実際の引き渡しはなく従来通り譲渡人が物を占有しているままである。そのため、占有改定による引き渡しでは一般外観上従来の占有状態に変更を生じさせるものとはいえない。したがって占有改定による占有取得は「占有」の開始に当たらず、Cに「占有」の開始があったとはいえない。
ウ よってCの主張は認められない。
⑶ 次に、CはBから甲の現実の引き渡しを受けた際に即時取得が成立するためAは甲の所有権を喪失する旨の抗弁を主張することが考えられるがかかる主張は認められるか。
ア Bからの現実の引き渡しは売買契約に基づくものであり、現実の引き渡しは正に一般外観上従来の変更を生じさせる占有取得方法であるからこれによる占有の開始は「占有」にあたる。
イ もっとも、Cは、占有改定時はBが甲の所有者であると信じていたため占有改定時点はでは善意であるが、現実の引き渡しを受けた時点では二重売買の事実について知っていたためこの時点ではBが甲の所有者でないことにつき悪意である。そのため現実の引渡があった時点を基準にすれば⑤の推定が覆滅するところ即時取得の「善意」の基準をいつにすべきか。
(ア)この点、即時取得制度は相手方が真の権利者であることを信頼して動産を譲受けた者を保護する制度である以上動産を譲り受け「占有」を開始した時点を基準として「善意」を判断すべきである。
(イ)したがって動産の現実の引渡を受け「占有」を開始した時点でBが甲の所有者でなかったことにつきCは悪意であるといえ⑤⑥の推定が覆滅し、「善意」であったとはいえない。
ウ よってCに即時取得は成立せずCの主張は認められない。
⑷ 以上よりCはAの請求を拒むことはできない。
以上