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2021年 刑法 大阪大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2021年 刑法 大阪大学法科大学院【ロー入試参考答案】

10/17/2023

The Law School Times【ロー入試参考答案】

大阪大学法科大学院2021年 刑法

1. まず、甲については殺人罪の成否が問題となるが、甲が病院からAを連れ出したときには、まだ甲は乙の能力について全く知らなかったから、この時点では甲に殺人罪の故意が認められない。そのため、甲がAを乙の下に連れていきAに必要な医療措置を受けさせなかった不作為につき、殺人罪(刑法(以下、略)199条)が成立しないか。

 ⑴ まず、本行為は不作為であるが殺人罪の実行行為にあたるか。

  ア 実行行為とは、結果発生の現実的危険を有する行為をいうところ、不作為も構成要件的結果発生の現実的危険を有するから、実行行為足りうる。もっとも、刑法の自由保障機能の観点から、処罰範囲を限定する必要がある。そこで不作為については、不作為が作為と構成要件的同価値性を有する場合、具体的には、①結果発生の現実的危険がある状況において、②一定の根拠に基づき作為義務を負うべき者が、③結果防止のために期待される一定の措置をとることが可能かつ容易であり、その措置をとる義務を負うのに、④それを怠った場合に認められると考える。

  イ これをみるに、まず、Aは脳内出血で重度の意識障害にあり、痰の除去や水分の点滴等を要する状態にあったが、病院から連れ出され乙の下に連れてこられたために、必要な治療を受けられない状態にあり、死亡する危険性があった(①充足)。そして、甲はAの子でありAと同居し生活費全般を支払っておりAを継続的に保護する関係にあったといえる。また、甲はABの生活費全般を支払うことでABの生活を経済的に支配していたといえる。さらに、ABはともに乙の信奉者であり、乙に預けたことの可否について客観的に適切な判断が下せるのは甲のみであった。加えて、甲は、自らの手でAを病院から連れ出し乙に預けており、Aの危険を生じさせた先行行為を行っている。したがって、甲には、Aに生じた危険を解消すべく作為をとる義務が認められる(➁充足)。そして、Aに適切な治療を受けさせることは救急車を呼ぶなどすれば可能であるし容易である。そのため、甲に係る措置をとるべき作為義務が認められる(③充足)。にもかかわらず、甲はかかる措置をとることを怠った(④充足)。以上より、甲の上記不作為には殺人罪の実行行為性が認められる。

  ウ そうすると、本行為は殺人罪の実行行為にあたる。

 ⑵ そして、Aが死亡するという結果が発生しているが、これは上記不作為との間で因果関係を有するか。

  ア 因果関係は、発生した結果につきいかなる範囲で行為者に帰責できるかという客観的帰属の問題であるところ、不作為の因果関係は、期待された行為がなされていたら結果を回避できたことが合理的な疑いを超える程度に確実であり、期待される作為によって解消されるべきであった危険が結果に現実化したときに認められる。

  イ これをみるに、Aがホテルに運び込まれた後、12時間以内に病院で必要な治療を受けていれば、Aの命が助かることは確実であったし、Aの死亡は痰による気道閉塞に基づく窒息死であり期待される作為によって解消されるべきであった危険が結果に現実化したといえる

  ウ そうすると、本行為とAの死亡結果との間に因果関係が認められる。

 ⑶ また、乙にAを預けたときに、乙が完全にインチキだと確信し、Aを乙に預ければAは必要な治療を受けられずに死亡する危険性が極めて高いと判断しているから甲には上記不作為時に殺人罪の故意も認められる。

 ⑷ 以上より、甲の上記不作為に殺人罪が成立する。

2. 乙がAに病院で適切な治療を受けさせなかった不作為に保護責任者不保護致死罪(218条後段、219条)が成立しないか。

 ⑴ まず、Aは脳内出血を起こしており「病者」にあたる。

 ⑵ また、「保護する責任のある者」に当たるかは、不真正不作為犯における作為義務に準じて考えられる。すなわち、作為義務及び作為の可能性容易性から判断される。
   これをみるに、乙は、乙を信奉するBに懇願された甲からAの治療を全面的にゆだねられている。そして、乙は、自己の能力によるAの治療が不可能であることを認識しながらAを自己の経営する施設に運び出すことを容認しており、Aに生じている危険の作出につき帰責性がある。以上より、乙にはAに生じた危険の発生を阻止すべく一定の措置をとるべき作為義務が認められる。そして、Aに適切な治療を受けさせることは救急車を呼ぶなどすれば可能であるし容易であった。
   以上により、乙は、「保護する責任のある者」にあたる。

 ⑶ そして、「その生存に必要な保護をしなかった」とは、「病者」につきその生存のために特定の保護行為を必要とする状況が存在することを前提として、その者の「生存に必要な保護」行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったこというところ、上記の通り、甲は、痰の除去等ができずに死亡する危険のあるAについて病院に連れていく等の生存に必要な行為をしなかったから「その生存に必要な保護をしなかった」といえる。

 ⑷ また、上記不作為によって、Aは痰の除去が行われず起動閉塞による窒息によって死亡している。

 ⑸ そして、乙は、死亡の危険までは認識していなかったが、Aの状態を認識しており少 なくとも保護責任者不保護についての故意は認められる。

 ⑹ 以上より、甲の上記不作為に保護責任者不保護致死罪が成立する。

3. なお、甲と乙はそれぞれ互いの不作為を認識しつつ自らの反抗たる不作為を行っており、「共同して」(60条)といえる。
 よって、甲乙は、保護責任者不保護致死罪の限度で共同正犯となる。この点、両者では実現した犯罪が異なるが、その場合でも両者が重なり合う限度で共同正犯が成立すると考える。なぜなら、共犯の処罰根拠は、法益侵害又はその危険という結果に対して因果性を及ぼす点にあるところ、異なる犯罪であっても、その構成要件が実質的に重なり合う限度で、因果性を及ぼしたといえるからである。

4. 以上より、甲に殺人罪、乙に保護責任者遺棄致死罪が成立し両者は保護責任者不保護致死罪の限度で共同正犯となる。

以上

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