5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2024年 商法
第1問
1. Xは、Cに対して、会社法(以下法令名略。)423条1項を根拠に甲社に対して1000万円の支払いをすることを請求することが考えられる。
⑴まず、Cは甲社の「取締役」である。
⑵次に、Xは甲社が乙社から小麦を購入する契約(以下、「本件契約」という。)の締結が、利益相反取引(356条1項3号)に該当し、Cの任務懈怠が推定されると主張する(423条3項1号)。
ア 「利益が相反する取引」とは、取引の安全の見地から、外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の取引をいう。
イ 本件では、Cは乙社の株式の100%を保有していた。とすると、Cは乙社の実質的所有者と評価でき、甲社の犠牲のもと乙社に有利な契約を締結するおそれがあるといえ、外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の取引といえる。
ウ よって「利益が相反する取引」に該当する。
⑶そして、1000万円の「損害」が生じており、Cが任務を怠ったことが推定される(423条3項1号)。もっとも、上記推定の反証の余地はないか。
ア たしかにCは乙社の全株式を保有しているが、本件契約における甲社乙社間の交渉はAとDとの間で数回の交渉がなされたうえでなされており、Cの関与はない。また、製粉業を営み主たる製品が小麦粉である甲社にとって、小麦の確保が難しくなっていたことは営業の可否に関わるもので極めて重大な事項であり、小麦の確保を早急に行う必要があった。
さらに、契約時点の小麦1トンあたり7万8000円から8万2000円という市場価格に照らせば、1トンあたり8万円でなされた本件契約の取引価格は不公正とはいえない。以上を考慮すると、上記推定の反証は可能である。
イ よって、Cについて本件契約についての任務懈怠は認められず、「任務を怠った」との要件を満たさない。
2. 以上より、Cに損害賠償請求をすることはできない。
第2問
1. 前段
207条1項が、裁判所に対し検査役の選任の申し立てを要求したのは、現物出資の財産の価額が当該財産の客観的な価値に比べて過剰に評価された場合には、過剰に多くの株式が発行されて既存株主の利益が損なわれたり、それだけの額の財産が会社に出資されたと信じて会社と取引した会社債権者の利益を害するおそれがあるため、それらを防止するためである。
2. 後段
現物出資財産が少額であれば、たとえ過大評価がされていても影響は小さいといえることから、迅速な募集株式の発行による便宜を優先するためである。
以上