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2023年 刑法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

京都大学法科大学院2023年 刑法

2023年度 京大ロー 刑法

第1問

第1 Xに嘘をついて500万円を用意させた行為

1. 甲の罪責

⑴ 甲は父Xに嘘をついて500万円を用意させているが、かかる行為は詐欺未遂罪(刑法(以下略)246条1項、250条)が成立しないか。

ア もっとも、甲はXに対して現金の交付を求める文言を述べていないが、詐欺罪の実行の着手は認められるか。

イ この点につき、①犯行計画上、被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要な嘘がすでに述べられたこと、②被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘がすでに述べられたこと、③本件嘘を誤信させることは、被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものであったことが認定されれば、詐欺罪の実行の着手が認められる。

ウ 本件において、甲はXに顧客から預かった大金を紛失したとの嘘(1回目の電話)及び上司の乙が2時間後に受け取りに行くとの嘘(2回目の電話)を述べている。これらの嘘(「本件嘘))を述べた行為は、Xをして、本件嘘が真実であると誤信させることによって、あらかじめ現金をX宅に移動させた上で、後にX宅を訪問して上司を装って現金の交付を求める予定であった乙に対して現金を交付させるための計画の一環として行われたものである。本件嘘の内容は、その犯行計画上、Xが現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであったといえる(①)。そして、このように二段階で嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘には、預金口座から現金をおろしてX宅に移動させることを求める趣旨の文言や、2時間後に上司がX宅を訪問することを予告する文言といった、Xに現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれていた(②)。そして、甲とXは親子関係であることから、本件嘘を真実であると誤信させることは、Xにおいて、乙の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる(③)。

エ よって、甲が本件嘘を一連のものとしてXに述べた段階において、詐欺罪の実行の着手があったと認められる。

⑵ しかし、結果としてXは現金を交付していないため、詐欺未遂罪に止まる。

⑶ 甲は、父親に嘘をついたことを後悔し、Xに「紛失の件は解決した」と電話で伝えているが、詐欺未遂罪が成立することを前提として、甲に中止犯(43条但書)が成立するか。

ア 中止犯が成立するには①「自己の意思により」②「中止した」といえることが必要である。①について、行為者が外部的障害によらずに自発的に行動した場合には、自己の意思によるものといえる。②について、中止未遂は犯罪の完成を防止したことをその成立要件とするのだから、結果発生の蓋然性を中心に中止行為を考えるべきである。すなわち、結果発生に向けて因果の流れが未だ進行を開始していない場合は単なる不作為で足りるが、結果発生に向けて因果の流れがすでに進行を開始している場合には、結果発生防止に向けての積極的な措置が必要となると解する。なお、中止行為は真摯なものであることを要する。

イ 本件において、甲は自発的に父親に嘘をついたことを後悔してXに電話して現金の受け取りをしないよう行動しているため、「自己の意思により」といえる(①)。また、Xは自宅に現金をおいて甲が指定した場所に向かっているため、現金交付の危険性がなくなり、結果発生の蓋然性が否定されるといえる。よって、「中止した」といえる(②)。

ウ したがって、甲には中止犯が成立し、刑が必要的に減刑される。

2. 乙の罪責

⑴ 乙は甲から電話でXに対する詐欺の計画を聞き、現金を受け取ることを承諾している。そのため、詐欺未遂罪の共同正犯(60条)が成立しないか。

⑵ 共謀共同正犯の成立要件は共謀とその共謀に基づく実行行為がなされたことである。共謀が肯定される要素は①意思連絡と②正犯性で、共同犯行の一体性を基礎付ける必要があるため、①意思連絡は最低限必須の要件である。もっとも、意思連絡のみでは一体性が基礎付けられないため、加えて②正犯性を基礎付ける正犯意思が加わる必要がある。正犯意思は意思連絡の強さを前提に、人的関係、果たした役割の重要性、動機の積極性、利益の帰属などの諸要素を考慮して総合的に判断する。

⑶ 本件において、甲が乙に電話で計画を説明していることから、意思連絡が存在したといえる(①)。また、乙は現金を受け取るという詐欺罪の実行行為を完遂するために必須の役割を担っている。そして、乙は甲に協力することによって、自己の甲に対する債権の回収ができるという利益がある。このことから、乙の正犯意思があったとみなすのが相当であり、正犯性も認められる(②)。よって、共謀が認められ、それに基づく実行の着手も認められる。

⑷ したがって、乙には甲との間で詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。なお、中止犯は個別的に判断するため、乙に中止犯は成立しない。

 第2 匕首を持参してX宅に向かった行為

1. 乙の罪責

⑴ 乙は脅迫してXから現金を巻き上げるために匕首を持参してX宅に向かっている。かかる行為は強盗予備罪(237条)が成立しないか。

⑵ 本罪が成立するためには、強盗(236条1項)の「予備」をすることが必要である。強盗の予備とは、強盗の実行を決意して強盗の準備をする行為であり、実行の着手前の段階の行為をいう。

⑶ まず、乙は強盗罪の実行を決意したといえるか。

ア 強盗罪は①暴行または脅迫を用いて②他人の財物を③強取した場合に成立するところ、①の暴行・脅迫は財物奪取の手段として行われる必要があり、その程度は反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫であるといえる必要がある。

イ 乙は匕首を用いて脅迫してXから現金を奪おうと考えていることから、脅迫は財物奪取に向けられている。そして、匕首という殺傷能力こそないが、刃物を用いて、かつ体格が良く強面の丙とともに若くはないXに対して脅迫を行おうと考えていることから、人数比・凶器・年齢を考えると反抗抑圧に足りるといえる。

ウ よって、匕首を用いて脅迫をして財物を強取する行為は強盗罪の実行行為といえるため、乙は強盗罪の実行を決意したといえる。

⑷ そして、匕首を被害者の自宅へ持参する行為は、強盗の実行の着手前の段階の行為と言えるため、強盗の予備をしたと言える。

⑸ したがって、乙には強盗予備罪が成立する。

2. 丙の罪責

⑴ 丙は乙に「少々手荒な取り立てをする。あんたは後ろで黙って立っているだけでいいから付き合ってくれ。謝礼は出す。」と犯行に誘われ、乙とともにX宅に向かっている。

⑵ まず、乙と丙は共謀が成立すると思われるが、乙は強盗罪の認識でいた一方で、丙は恐喝罪(249条1項)の認識でいたにすぎない。この場合、どの範囲で共謀が成立したといえるか。

ア 相互利用補充関係に基づく共同犯行の一体性という共同正犯の性質からすれば、共同正犯が成立するためには、共同して特定の構成要件を実現したという事実を要するというべきである。そうすると、共同正犯間の故意が異なる場合、共同正犯が成立しないかにもみえる。しかし、構成要件的に重なり合う範囲については犯罪の共同が認められる。
 したがって、かかる限度で共謀は成立する。

イ 本件において、強盗罪と恐喝罪は恐喝罪の範囲で重なり合うため、恐喝罪の範囲で共謀が成立したといえる。

⑶ もっとも、恐喝罪の共謀があったが、乙が行った行為は強盗予備罪の構成要件に該当する行為である。かかる行為は共謀に基づく実行行為といえるか。かかる実行行為に共謀の射程が及ぶかが問題となる。

ア 事前の共謀の射程が事後の行為に及ぶかどうかは当初の共謀と実行行為の内容との共通性、共謀による行為との関連性、犯意の単一性・継続性、動機・目的の共通性等を総合的に考慮して判断する。

イ 強盗予備罪は強盗の実行を決意して強盗の準備をする行為であり、被害者の意思に基づいて占有を移転させる行為である恐喝罪とは性質が異なる。また、恐喝罪には予備罪が存在しない。このことから、強盗予備罪の行為に恐喝罪の共謀の射程は及ばないと解するのが相当である。

⑷ よって、匕首を持参してX宅に向かった行為について、丙は不可罰である。

3. 甲の罪責

⑴ 甲と乙は前述の通り、詐欺罪の共謀が成立しているが、かかる行為に共謀の射程が及ぶか。

⑵ 詐欺罪と強盗予備罪の保護法益、行為態様を考慮すると、犯罪の性質は異なる。

⑶ よって、共謀の射程は及ばず、かかる行為について、甲は不可罰である。

第3 X宅の玄関ドアをこじ開けた行為

1. 乙の罪責

⑴ 乙は窃盗行為を行う意思でX宅の玄関ドアをこじ開けて、宅内に侵入しているが、財物の窃取に至る前に逮捕されているため、既遂に至っていない。では、窃盗罪の実行の着手は認められ、未遂罪が成立するか否かが問題となる。

ア 実行行為とは法益侵害の現実的危険性を惹起するものであり、その判断はある行為が当該犯罪の構成要件該当行為に密接な行為であり、かつ、その行為を開始した時点ですでに当該犯罪の既遂に至る現実的危険性があると評価できる場合には、その時点で実行の着手が認められる。

イ 本件では、乙は実際に財物を漁ったりする行為こそ行なっていないが、X宅が不在であることを確認した上で、玄関ドアをこじ開けて侵入しており、不在の宅の玄関ドアをこじ開ける行為は、窃盗罪の構成要件該当行為に密接な行為であり、かつその行為を開始した時点で窃盗罪の既遂に至る現実的危険性があると評価できる。
 そのため、X宅の玄関ドアをこじ開けた時点で窃盗罪の実行の着手は認められる。

⑵ よって、乙には窃盗未遂罪(235条、243条)が成立する。

2. 丙の罪責

⑴ まず、乙と丙の間で成立した恐喝罪についての共謀の射程が、かかる窃盗未遂罪の犯罪行為に及ぶかが問題となる。

⑵ 恐喝罪も窃盗罪も他人の財物を自己に移転する犯罪であり、反抗抑圧に足らない暴行・脅迫の有無が異なるだけである。保護法益も被害者の財産に対する占有であり、共通する。また、両者とも強制的に占有を移転させるような行為態様であり、対象や同期も共通するため、共謀の射程が及ぶといえる。

⑶ もっとも、丙は「話が違う」と立ち去っているが、乙との共犯関係から離脱したといえるか。

ア 共同正犯の処罰根拠は共同実行の意思の下、相互利用補充関係によって犯罪の実現に因果的な影響を相互に及ぼしあった点にある。そうだとすれば、後の結果と自己の行為との因果性が断ち切られたと評価できれば共犯関係からの離脱が認めてもよい。
 よって、離脱の認定は、因果性(物理的因果性、心理的因果性)の除去があるかどうかによることになる。実行の着手後に離脱する場合には、既に因果の流れは現実に進行を始めている以上、離脱が認められ、結果への帰責がないとの評価を得るには、積極的な行為により行為と結果との因果性を断ち切ることが必要である。

イ 本件では、すでに窃盗罪の実行の着手が認められる。しかし。丙は「話が違う」と言っただけで立ち去っている。すなわち、丙は離脱時点で犯行が継続するおそれが消滅していなかったのに、格別それを防止する措置を講ずることなく立ち去っている。そのため、因果性の除去があったとはいえず、共犯関係からの離脱は認められない。

ウ したがって、丙には乙との共犯関係の離脱は認められず、窃盗未遂罪について共同正犯が成立する。

3. 甲の罪責

⑴ 甲と乙は前述の通り、詐欺罪の共謀が成立しているが、かかる行為に共謀の射程が及ぶか。

⑵ 詐欺罪も窃盗罪も他人の財物を自己に移転する犯罪であり、保護法益も同じである。っまた、対象者も同じである。しかし、詐欺罪と本件の住居侵入窃盗は行為態様が大きく異なる。また、詐欺罪は被害者の任意の占有移転に基づくが、窃盗罪は任意の占有移転に基づかない。

⑶ よって、共謀の射程は及ばない。

第4 罪数

よって、甲には乙との間で詐欺未遂罪の共同正犯が成立し、中止犯が成立する。
 乙には、①甲との間で詐欺未遂罪の共同正犯、②強盗予備罪、③丙との間で窃盗未遂罪の共同正犯が成立する。①に吸収される。
 丙には乙との間で窃盗未遂罪の共同正犯が成立する。

第2問

第1 甲の罪責

1. 乙の鞄から運転免許証を抜き取った行為

⑴ 甲が乙の鞄から乙の運転免許証を抜き取った点について、窃盗罪(235条)の成否が問題となる。

⑵ 窃盗罪の客観的構成要件は、①他人の財物を②窃取したことであるところ、「他人の財物」とは、他人が占有する他人の所有物を意味し、「窃取」とは占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転することをいう。

ア 運転免許証は「財物」に当たるか。

(ア)財産的価値のある有体物であれば「財物」該当するところ、運転免許証は悪用される恐れがあるため、自分の手元に置いておくという利益がある点から、財物性が認められると解するのが相当である。

(イ)よって、乙の鞄の中にあった財布の中に入っている乙の運転免許証は乙が占有する乙の所有物であり、「他人の財物」に当たる。

イ そして、その乙の占有下にあった乙の運転免許証を抜き取っているので、「窃取」したといえる。

⑶ そして、甲の故意に欠けるところもない。もっとも、窃取してから約1時間半後には元の場所に戻しており、かつ元々すぐに戻すつもりで抜き取っていることから、不法領得の意思が認められないのではないか。

ア 領得罪の成立に際し、不法領得の意思の有無を判断する必要がある。かかる主観的超過傾向を不要とすれば、不可罰的な使用窃盗と窃盗罪との区別、さらに、窃盗罪と毀棄罪との区別が困難になるからである。
 そして、その内容としては、①権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、②その経済的用法に従いこれを利用・処分する意思であると解する。後者は、要求される趣旨から考えて、毀棄・隠匿を除外した当該財物から何らかの効用を享受する意思で足りると解する。

イ 本件では、運転免許証を酒の購入のために使用しようとしているため、②が認められることは明らかである。
 次に、①であるが、返還意思がある場合でも、相当程度の利用可能性を侵害する意思がある場合には、これが認められる。本件では乙が寝ている間に持ち出しており、乙の利用可能性がないため、権利者排除意思がないとも思われる。しかし、運転免許証は所有者以外が使用することは予定されておらず、それを1時間半の間持ち出すことは、相当程度の利用可能性を侵害したといえる。

ウ したがって、不法領得の意思が認められる。

⑷ よって、甲には窃盗罪が成立する。もっとも、乙は「同居の親族」(244条1項)であるため、刑が免除される。

2.  Xに年齢を偽って酒を入手した行為

⑴ 甲はXに未成年であるのに、乙の運転免許証を提示して成年であると偽って酒を購入しているため、かかる行為について「人を欺いて財物を交付させた」として詐欺罪(246条1項)の成立の可能性がある。

⑵ もっとも、甲は適切な代金を支払って、酒を購入しているため、Xには財産的な損害がなく、詐欺罪が成立しないのではないか。

ア この点について、詐欺罪も財産罪である以上、欺罔行為がなかったならば交付がなかったであろうといえる場合全てについて、同罪が成立すると解すべきではなく、詐欺罪としての処罰を正当化するような法益侵害性が認められる必要がある。そこで、「人を欺」く行為といえるためには、財産的処分行為の基礎となるような重要な事項を偽る必要があると解する。

イ 未成年が飲酒をすることは法律で禁止されており、販売する側も未成年へのお酒の提供は法律により禁止されている。そのため、Xは甲が未成年であるか否かは関心を寄せる事項であり、その理由にも合理性がある。また、未成年にお酒を販売しないことは明示してあることが通常であり、Xも年齢確認をしている。そして、甲が未成年であることがわかっていれば甲にお酒を販売しなかったといえる。したがって、甲が未成年であるかどうかは、財産的処分行為の基礎となる重要な事項であり、甲はその事項を偽っている。

⑶ よって、甲には詐欺罪が成立する。

3. 罪数

以上より、甲には乙に対する窃盗罪及びXに対する詐欺罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。なお、窃盗罪については刑が免除される。

第2 乙の罪責

1. 甲をベランダに放置した行為

⑴ 乙は泥酔状態の甲をベランダに放り出して放置しているが、かかる行為について、遺棄罪(217条)または保護責任者遺棄罪(218条)が成立しないか。

⑵ まず、かかる行為は「遺棄」をしたといえるか。217条及び218条の「遺棄」には、要扶助者を危険な場所に移転させる移置が含まれるため、乙の行為は移置にあたり、「遺棄」をしたといえそうである。もっとも、甲の生命の危険が伴わない移置の場合にも「遺棄」といえるかどうかが問題となる。

ア この点について、遺棄罪は抽象的危険犯であり、かつ生命及び身体に対する危険犯である。

イ そのため、泥酔した甲をベランダに放り出す行為は、生命の危険が伴わないとしても、少なくとも風邪をひいているため身体に対する危険が発生するおそれはあったといえる。そのため、乙の行為は「遺棄」に当たるといえる。

⑶ もし、乙が「保護責任者」に当たるのであれば、成立する犯罪は保護責任者遺棄罪であり、当たらないのであれば、単純遺棄罪が成立する。

ア 保護責任があるか否かの判断は、不真正不作為犯の作為義務に準じて考えるべきであり、継続的な保護関係があることや、先行行為、保護の引き受け、排他的支配などの要素を総合して検討すべきである。

イ 本件において、甲と乙は同室で暮らしており、両親はすでに眠っていること、甲が泥酔状態であったことから、乙は甲に対して排他的支配があった状態であったといえる。そのため、保護責任があったといえ、乙は「保護責任者」に当たる。

⑷ よって、乙には保護責任者遺棄罪が成立する。

2. 段ボールに火をつけて材木に延焼させた行為

⑴ 乙は焚き火をしようとY所有の段ボールに火をつけたところ、材木に延焼し火災が発生し、近隣住民が避難するに至っている。乙の行為には、建造物等以外放火罪(110条1項)が成立しないか。

⑵ 放火罪が成立するためには「放火」して客体を「焼損」することが必要であり、「放火」とは、目的物の焼損を惹起させる行為を言い、「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続しうる状態になったことをいう。本罪の客体は建造物以外の全ての自己所有以外の物である。そして、成立には「公共の危険」の発生が必要である。「公共の危険」とは108条・109条1項所定の物件に延焼する危険に限らず、不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険をいう。

⑶ 本件において、乙はライターでY所有の段ボールに点火しており、他人所有の建造物以外の物に「放火」したといえる。また、段ボールは材木に燃え移って火災が生じていることから、火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続しうる状態になったといえ、「焼損」したといえる。また、火災となったことで近隣の住民が避難するに至っていることから、不特定多数人の生命・身体・財産に対する危険が発生したといえる。

⑷ もっとも、乙は焚き火をしようと点火しているにすぎず、公共の危険の発生を認識していたとはいえない。この場合にも本罪は成立するのか。

ア この点について、責任主義の観点から「公共の危険」の認識を要求する立場もあるが、110条1項は「よって」の文言を用いており結果的加重犯であることが明らかであるから、その認識を要求することは文理解釈の観点で問題が大きい。
 したがって、「公共の危険」の発生の認識は不要であると解する。

イ よって、乙が公共の危険の発生の認識をしていなかったとしても、本罪は成立する。

⑸ 以上より、乙には建造物等以外放火罪が成立する。

3. 罪数

以上より、乙には保護責任者遺棄罪と建造物等以外放火罪が成立し、両者は併合罪となる。

以上

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