8/11/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
早稲田大学法科大学院2023年 民事訴訟法
設問(1)
以下は、Xの別訴は142条に反し許されないとするYの立場からの説明である。
1. 142条が重複訴訟禁止の原則を定めている趣旨は、二重の応訴の煩、審理の重複、および既判力の矛盾抵触を回避することにある。そこで、重複起訴が禁止される「事件」の同一性は、当事者及び訴訟物の同一性によって判断される。
2. そして、一部請求の場合には、その旨明示されているかどうかに関わらず訴訟物は当該債権全体であると考える。実体法上一部と残部とが別個の債権として存在するわけではなく、あくまで一個の債権が存在するにすぎないからである。
3. これを本件についてもみる。
当事者については、本訴・別訴のどちらもX、Yであり、同一である。また、本訴はXのYに対する不法行為による損害賠償請求を明示的に一部訴求するものであり、別訴はその残部を訴求するものであるから、どちらも訴訟物は上記債権の全体であり、同一といえる。
4. よって、Xの別訴は142条に反し許されないことになる。
設問(2)
判例の立場では、Xの別訴は142条に反せず許される。以下は判例の立場に従ったXによる反論である。
1. 142条の「事件」の同一性の解釈については第1の1と同様である。しかし、一部請求の際の訴訟物に関して、最高裁の判例は、明示の一部請求の場合は、訴訟物は当該債権全体のうちその一部請求部分に限られるという立場に立っている。
2. これを本件についてみる。
まず、前述の通り当事者の同一性は認められる。しかし、本訴の訴訟物はXのYに対する不法行為による損害賠償請求権2200万円のうち2300万円である。一方、別訴の訴訟物は同債権3300万円のうち残額の1000万円である。よって、訴訟物は異なっている。
3. したがって、Xの別訴は142に反せず許される。
設問(3)
私は、以下の立場にたつ。
1. まず、142条の「事件」の同一性の解釈については第1の1と同様である。そして、一部請求の際の訴訟物については、最高裁の判例と同様、明示の一部請求の場合は、その一部請求部分のみが訴訟物になると解するべきである。なぜなら、民事訴訟は当事者間の具体的な紛争解決のためのプロセスであり、私的自治が妥当する上、敗訴可能性を検討するための試験訴訟を認める必要性があるからである。また、被告としても、明示があれば残部請求の可能性はあらかじめ認識することができ、残債務不存在確認の反訴を提起することもできたのであるから、不意打ち防止の観点からも問題はない。なお、Yの主張は実体法上の債権はあくまで一つであることを根拠としているが、そもそも債権の個数というのは、当事者の意思を反映して相対的に決せられるものに過ぎないというべきであるから、かかる主張は妥当ではない。
2. これを本件についてみる。
設問2の2と同様、当事者は同一だが、本訴と別訴で訴訟物が異なる。
3. よって、142条は適用されない。なお、インストラクターの仕事という職業が不安定であることから逸失利益について具体的な額をあらかじめ算定することが困難であること、インストラクターという仕事は理解が得られにくく一度の審理で十分な賠償額が認定される可能性も低いことから、142条によってXの別訴を制限することはXにとって酷であり、上記のような結論に立ったとしても当事者の公平にかなう。
以上