10/2/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2022年 行政法
設問1
1. 本件取消処分は、「職権取消し」と「撤回」のいずれに当たるか。
2. 「職権取消し」とは、行政庁が職権により当初から瑕疵のある行政行為について遡及的にその効力を消滅させることをいう。それに対して、「撤回」とは、行政庁が瑕疵なく成立した行政行為について後発的事情を理由にその効力を消滅させることをいう。すなわち、両者は行政行為当時の瑕疵の有無によって区別される。
3. 本件において、YがXに対して本件指定を取り消すことになったのは、Xが指定医師として行った中絶手術のうち、法14条1項各号が定める中絶手術の要件を充たさないものが複数含まれていたことを理由としている。そしてこの事情は、本件指定を行なった後の後発的な事情である。
したがって、本件取消処分は、本件指定をした当時には瑕疵がなかったが、その指定の効力を消滅させる処分といえるため、「撤回」に当たる。
設問2
1. 本件取消処分は、法律の留保の原則に反するか。
2. 行政行為の撤回は、行政の公益適合性を維持するための積極的行為であり、撤回権限と処分権限は同視できる。そのため、撤回権限は処分権限と表裏一体であるといえ、特別の根拠なくして行政行為の撤回は認められると解する。
3. したがって、本件取消処分は特別の根拠なくして行うことができるため、法律の留保の原則に反しない。
なお、授益的行政行為の撤回の場合、一度有効に成立し、瑕疵がないにもかかわらず撤回するのであり、相手方・利害関係人の信頼や法的利益を害する。そこで、相手方に帰責性がある場合、同意がある場合、相手方・第三者の既得権益を失わせることの不利益より公益上の必要性が高い場合のいずれかの場合に限り、撤回を認めるべきである。
設問3
1. Xは本件取消処分の取消訴訟における違法事由として、本件取消処分が裁量処分であり、裁量権の逸脱・濫用があるとして行政事件訴訟法30条に違反することを主張すべきである。
2. 本件取消処分は授益的行政行為の撤回であり、設問2で述べた通り撤回権限と処分権限と表裏一体となるため、撤回権限の根拠条文は母体保護法14条各号である。そして、同条1号は「母体の健康を著しく害するおそれ」といった曖昧な文言を用いているところ、そのような文言が用いられている理由は、人工妊娠中絶には医学や経済その他の見地からの専門的判断が必要であるためである。よって、撤回に関する要件裁量がYにあるといえる。Xとしては、(ア)ないし(エ)の事情を理由に要件裁量の逸脱・濫用があると主張すべきである。
⑴ 原則、行政庁の判断が尊重されるべきであるが、行政庁の裁量権の行使としての処分が、全く重要な事実の基礎を欠くか又は社会通念上著しく妥当性を欠く場合には裁量権の逸脱濫用となる(行政事件訴訟30条)。
⑵ 本件では、Yは、違法とされた中絶手術の件数がわずか2件であること、そのいずれも本人と配偶者が中絶手術を強く希望しておりXが断ると出生した子の虐待等の至る恐れもある特殊なケースであったこと(ア)、Xは深く反省し今後は違法な行為は一切行わないと誓約していること(イ)などを看過して本件取消処分を行っている。母体保護法の趣旨からするとこれらの事情を考慮すべきであり、これを考慮していないYには判断過程における考慮不尽が認められる。 また、他にも同様の中絶手術をしている指定医師がいるにもかかわらず処分の対象となっていないこと(ウ)は、平等原則違反といえる。さらに、本件取消処分は日ごろYを批判しているXに対する報復として行われた可能性があり、これは法の趣旨を逸脱した目的による処分として権利濫用といえる。
⑶ 以上より、本件取消処分は社会通念上著しく妥当性を欠くものとして、裁量権の逸脱濫用があるといえる。
3. Xは、以上のような主張をすべきである。
以上