3/30/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東京大学法科大学院2021年 公法系
設問(1)
1. 本件申立ては、行政事件訴訟法37条の5第1項(以下、当該法令名は「行訴法」という。)にいう「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があ」るときに当たるといえるか。
2
⑴ 仮の義務付けは、行政庁が未だ処分を行なっていない段階で、裁判所が、仮の許可をするものであるので、同じく仮の救済といっても、現状維持を命ずる執行停止とは異なり、より積極的に行政活動に裁判所が介入するものであることから、「償うことのできない損害」とは、執行停止の時に求められる「重大な損害」(行訴法25条2項)よりも損害の性質及び程度が著しい損害をいうと解すべきである。もっとも、国民の権利利益の実効的救済を図ろうとした仮の義務づけの趣旨に鑑みれば、およそ実働が不能なほどに厳格に解することは妥当ではない。そこで、「償うことのできない損害」とは、金銭賠償ができない損害に限らず、金銭賠償のみによって損害を甘受させることが社会通念上著しく不相当と評価される損害を含むと解すべきである。
Xらは、皇室典範改正賛成派の主張を世に問うために本件集会を開催しようとしている。そうすると、本件集会を実施できなくなることにより、Xらは、集会の自由(憲法21条1項。以下、当該法令名は省略する。)という憲法によって保障された基本的自由が侵害されることになる。そして、基本的自由の侵害に対する損害は、もともとその算定が甚だ困難であるため、懲罰的賠償が許容されない現行法制のもとでは、低額の慰謝料が認容されるにとどまる蓋然性が高いし、また、基本的自由の侵害の回復という観点からしても、これを慰謝料に換算した上、金銭賠償をすることによってたやすくその損害の回復ができると考えてしまうことにも相当に問題があり、憲法秩序からしても、また、社会通念からしても是認し難いものがある。そうすると、本件集会が実施できなくなることによって被るXらの損害は、金銭賠償のみによって損害を甘受させることが社会通念上著しく不相当と評価されるということができる。したがって、Xらに生じる損害は、行訴法37条の5第1項所定の「償うことのできない損害」に当たる。
⑵ また、Xらは9月3日に本件決定の取消しを求める訴えを提起しており、本件集会の開催予定日である9月23日までわずか20日しかないことからすると、本件集会開催日までに本件本案訴訟の判決が確定することはありえないことも明らかである。したがって、「緊急の必要があ」るといえる。
3. よって、本件申立ては、行訴法37条の5第1項にいう「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があ」るときに当たる。
設問(2)
1. Y市は、A地区ふれあい広場の設置目的を考えれば、市民会館の利用に関する最高裁判決の射程は本件には及ばないと考えている。そこで、以下この主張の是非を検討する。
2.
⑴ 市民会館の利用に関する泉佐野市民会館事件は、ある施設が住民の使用を原則として認める「公の施設」(地方自治法244条1項)であり、かつ、その施設の設置目的が集会である場合には、「正当な理由」(地方自治法244条2項)のない利用拒否は、地方自治法244条に違反すると同時に、憲法上の集会の自由を実質的に侵害するとした。そうすると、A地区ふれあい広場の設置目的に集会が含まれる場合には、泉佐野市民会館事件の射程が及ぶことになる。
⑵ Y市ひばりが丘公園条例5条1項4号が「集会」を挙げているのに対し、Y市A地区ふれあい広場条例5条1項各号には「集会」が挙げられていない。そうすると、A地区ふれあい広場の設置目的に、集会は含まれず、集会のためにA地区ふれあい広場を利用することは、行政財産の目的外使用に当たるにすぎないとも思える。しかし、A地区ふれあい広場は、Y市の市街地にある公園・広場等の中では広いものの1つであり、祭り、野外カラオケ大会等の催しが開かれてきたという実態がある。さらに、Y市A地区ふれあい広場条例1条は「地域コミュニティ活動の場を確保」することを設置目的として掲げているところ、国政上の争点である皇室典範改正について集会を開くことは、Y市民相互の意見交換を促進することにもなるといえるため、「地域コミュニティ活動」にあたる。そして、集会は、特定の場所に集まるという性質上、「広場の全部又は一部を独占して利用すること」(Y市A地区ふれあい広場条例5条1項2号)に該当する。そうすると、A地区ふれあい広場を集会による使用に供することは、公の施設の使命として、当然に想定されているというべきである。
⑶ したがって、A地区ふれあい広場の設置目的に集会が含まれるといえるため、泉佐野市民会館事件の射程が及ぶ。
3. よって、泉佐野市民会館事件の射程が及ばないとのY市の主張は認められない。
設問(3)
1. A地区ふれあい広場は、「公の施設」(地方自治法244条1項)に当たるから、Y市は、正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならず(同条2項)、また、住民の利用について不当な差別的取扱いをしてはならない(同条3項)。そして、Y市A地区ふれあい広場条例は、地方自治法244条の2第1項に基づき、公の施設であるA地区ふれあい広場の設置及び管理について定めるものであり、Y市A地区ふれあい広場条例5条2項は、その利用を拒否するために必要とされる正当の理由を具体化したものであると解される。また、上述のように、公の施設として、集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に反しない限りでその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずることになる。したがって、集会の用に供される公共施設の管理者は、当該公共施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
このような観点からすると「広場の管理上支障があるとき」(Y市A地区ふれあい広場条例5条2項)とは、広場の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、A地区ふれあい広場の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきである。
2. 上述のように、A地区ふれあい広場の本来の設置目的は「地域コミュニティ活動の場を確保」(Y市A地区ふれあい広場条例1条)することにあり、本件集会は地域コミュニティ活動の一環と評価することができる。そして、A地区ふれあい広場はY市の市街地にある公園・広場等の中では広いものの1つであり、祭りや野外カラオケ大会等の催しが開かれてきたという実態があることから、本件集会を開催するため必要な規模や構造、設備を有しているといえる。また、確かに、Y市役所に、皇室典範改正に反対する市民から、税金で管理する公園で偏った意見を持つ人たちの集会が開かれるべきではないという趣旨の電話が相次ぎ、なかには、開催が許可されるならば実力で阻止するという意見もあったという状況では、本件集会のための利用を許可すれば、集会を妨害しようとする者との間で紛争が生じ、地域コミュニティ活動に支障を来たすことが予想されるとも思える。しかし、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである。そして、本件では警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなどの特別な事情は認定できない。
したがって、上記のような事情によれば、「広場の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできない。
3. よって、不許可事由には該当せず、本件申請は認容されるべきである。
以上