2/4/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
同志社大学法科大学院2024年 刑事訴訟法
第1問
1. KのGPS端末を取り付けて行った捜査(以下、「本件GPS捜査」とする。)が「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)に該当する場合、「法律に特別の定」及びそれに対応する令状が要求される。そこで、本件GPS捜査が「強制の処分」に該当するか問題となる。
2. 「強制の処分」は、強制処分法定主義と令状主義の両面にわたり厳格に制約する必要があるものに限定すべきである。よって、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、重要な権利利益を制約するものを意味すると解すべきである。
憲法35条の保障対象には住居、書類及び所持品に限らず、これらに準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれる。そして、GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものである。
そうすると、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に密かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反して私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして「強制の処分」に当たる。
そして、GPS捜査は、刑訴法の各種強制処分をもって行い得ないものと解すべきである。GPSを取り付ける対象と罪名を特定しただけでは、被疑事実と関係のない使用者の行動の把握を抑制することができず、裁判官による令状審査の趣旨を満たすことができないし、GPS捜査の場合、令状の事前呈示ということが想定できず、それに代わる手続の公正を担保する手段が仕組みとして確保されていないため、適正手続の保障(憲法31条)という観点からも問題が残る。そして、現行法の強制処分の枠内でこれらの問題点を解消するためには令状に様々な限定的条件を付して処分を許すことが必要になるが、事案ごとに個々の令状裁判官の判断により多様な選択肢の中から的確な条件が選択されなければ是認できないような強制処分を認めることは、強制処分法定主義を定める197条1項但書の趣旨に沿うものとはいえない。
3. 本件GPS捜査については、「法律に特別の定」が刑事訴訟法にないため、強制処分法定主義違反であり違法である。
第2問
1. 違法収集証拠排除法則は明文規定がなく、違法に収集された証拠が証拠として用いることができるかどうかが問題となる。
確かに、証拠の収集手続に違法な点があったとしても、証拠物自体の価値に変わりはない。そうだとすれば、事案の真相をできる限り明らかにするため、直ちに証拠能力を否定することはできない。
しかし、真相の究明も、人権保障を全うしつつ適正な手続(憲法31条)の下でなされなければならないものであるし、また、かような証拠を全て採用するとすれば司法の廉潔性にも反する。さらに、将来の違法捜査を抑止するために、証拠を排除すべきであるともいえる。
そこで、一定の場合には証拠排除すべきだが、その基準としては、まず、①令状主義の精神を没却するような重大な違法が存在すること(違法重大性)が必要である。軽微な違法であれば、実体的真実発見(1条)を優先すべきだからである。
さらに、②違法抑止の必要上排除が相当であること(排除相当性)が要求される。相当とは、違法捜査抑止のために、必要かつ有効であると認められることである。
以上の①及び②を満たす場合に証拠能力が否定されると解する。
以上