6/28/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2024年 民事訴訟法
設問⑴
1. まず、本件訴訟は第一審かつ訴額が500万と140万を超えるので地方裁判所の管轄である(裁判所法24条1号)。
2. 次に、土地管轄につき、本件訴訟の被告であるXは大阪市に在住しているので、普通裁判籍として、被告の「住所地を管轄する裁判所」たる大阪地方裁判所が管轄裁判所となる(民事訴訟法(以下法名省略)4条1項)。
また、本件訴訟は貸金返還債務の不存在確認という財産権上の訴えであり、その義務履行地も特別裁判籍として管轄になるところ(5条1号)、貸金返還債務の「弁済は債権者の現在の住所」で行うので(民法484条)、義務履行地は大阪市のXの居住となり特別裁判籍も大阪地方裁判所である。
3. したがって、本件訴訟の管轄裁判所は大阪地方裁判所である。
設問⑵
1. ①の場合
⑴本件で、Xが貸金返還訴訟を反訴として提起し、裁判所が本件の金銭交付を貸金であると認定した場合に、本訴および反訴についていかなる判決をすべきか。
⑵ア まず、反訴の提起が本訴との関係で二重起訴にあたり(142条)、不適法却下されないか。
イ この点、同条の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、矛盾判決の危険という弊害の防止にある。そこで、「事件」の同一性の有無は、当事者及び訴訟物の同一性により判断する。
ウ 本件で、本訴も反訴も当事者はXとYであり、それぞれ原告被告は入れ替わっているが、同条の趣旨に関連する既判力は当事者に及ぶ(115条1項1号)ため、当事者は同一と言える。また、本訴の訴訟物は貸金返還請求権であり、反訴も同様であるから、訴訟物も同一である。よって「事件」の同一性は認められる。
しかし、二重起訴の禁止の趣旨は上記の通りであるところ、以下のように本件の反訴であれば本訴と併合審理されるので既判力の矛盾抵触のおそれは小さい。また、弁論や証拠調べが同時に行われることとなり審理の重複による訴訟不経済も生じないし、その意味で被告の応訴の煩も小さい。よって、同条の趣旨は妥当せず、本件の反訴が二重起訴として却下されることはない。
エ なお、反訴が提起された場合には、当然に本訴と併合審理が強制されるわけではない。しかし、本件のように本訴の債務不存在確認訴訟に対して、訴訟物を同じくする反訴の給付訴訟が提起された場合に、両訴訟を別々に審理する利点はほとんどないから、裁判所は弁論を分離することは許されないと解される。
⑶ア 次に、債務不存在の訴えに対して本件の反訴が提起された場合、本訴である債務不存在確認の訴えは確認の利益を失い不適法却下とならないか。
イ この点について、債務不存在確認訴訟で請求棄却判決により債務の存在が確定しても、執行力がなく、執行力のある給付判決より紛争解決の実効性が弱い。
そうすると、債務不存在確認訴訟係属中に、同一債務の支払いを求める反訴が適法に提起された場合には、本訴たる債務不存在確認の訴えは、方法選択として適切ではなく、確認の利益が失われると考える。
ウ 本件で、反訴たる貸金返還訴訟は、本訴たる債務不存在確認の訴えの「目的である請求…と関連する請求」であるから、Xは適法に反訴を提起できているため、本訴の確認の利益は失われている。
エ 以上より、本訴については訴えを却下し、反訴については請求認容判決をするべきである。
2. ②の場合
⑴Xの提起した貸金返還請求訴訟は、Yによる貸金債務不存在確認訴訟との関係で二重起訴に当たり(142条)、不適法却下されないか。
⑵上記の通り、「事件」の同一性の有無は、当事者及び訴訟物の同一性により判断する。
⑶本件で、本訴も別訴も当事者はXとYであり、それぞれ原告被告は入れ替わっているが、同条の趣旨に関連する既判力は当事者に及ぶ(115条1項1号)ため、問題とならず、当事者は同一と言える。
また、本訴の訴訟物は貸金返還請求権の存否であり、別訴も同様であるから、訴訟物も同一である。
⑷よって、本訴と別訴は「事件」が同一であるといえ、別訴は二重起訴禁止に当たり、不適法却下される。
なお、上記の裁判管轄からすれば、本訴と別訴がともに大阪地方裁判所に提起されていると考えられることから、裁判所が本訴と別訴の弁論を併合し(152条1項)、併合審理すれば二重起訴禁止の趣旨が妥当しないのであるから、別訴を不適法却下する必要はないとの見解もあろう。しかし、この場合、Yとしては反訴を提起することが可能であるからそのように解する必要はなく、裁判所は反訴の提起を被告に促すべきである。
以上