5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
筑波大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
1. 本件書証に、証拠能力が認められるか。
⑴本件書証は、①の供述と②の供述の間に齟齬があるとして証拠調べ請求されている。そのため、本件書証は、Aの証言の「証明力を争うため」(328条)の証拠として証拠能力が認められないか。328条により許容される証拠の範囲が問題となる。
ア 328条は自己矛盾供述の存在自体を示すことができれば、その内容が真実か否かに関わらず公判供述の信用性を減殺することができるため、内容の真実性が問題とならないことを注意的に規定したものである。
また、自己矛盾供述以外の供述を用いる場合には、その供述の真実性を前提とすることになり反対尋問権の保障などの伝聞法則の趣旨を没却することになる。
そこで、328条により許容される証拠は自己矛盾供述に限られる。
イ 本件で、Aは下線部①においては「甲は一人で外へ出て行った。私は、甲の後に道路に出ていったが、道路に出ると甲の姿は見当たらなかった。」と甲が消火活動していないということを述べているが、下線部②においては「甲が消火器で消火している間に私は自宅に戻り」と、甲が消火をしていたと語っている。よって、下線部②は自己矛盾供述である。
⑵本件書証は自己矛盾供述であるとしても、Aの署名及び押印がないのであるから、証拠能力がないのではないか。自己矛盾供述の存在の立証方法が問題となる。
ア 自己矛盾供述の存在は、公判証言の証明力に大きな影響を及ぼす事実であり、それによって訴訟の結果が決せられることもあり得るから、確実な認定を必要とする。
そこで、自己矛盾供述の存在は厳格な証明によらなければならず、自己矛盾供述を録取した書面を証拠とする場合、自己矛盾供述をした者の署名・押印が必要であると考える。
イ 本件で、本件書証には自己矛盾供述をした者であるAの署名・押印がない。
2. 以上より、本件書証に、証拠能力は認められない。
以上