10/2/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
一橋大学法科大学院2022年 民事系/民事訴訟法
(1)について
1. Xのかかる確認の訴えは、いわゆる確認の利益が認められず不適法ではないか。
⑴ 確認の訴えの場合は、その確認の対象が論理的に無限定である上、執行力のある判決が得られるわけではない。そのため、訴えの利益によって、確認の訴えが許容される場合を限定する必要が大きい。そのため、方法選択の適切性、対象選択の適切性、即時確定の利益の観点から確認の利益の有無を判断する。
⑵ 本件で、確かに、具体的相続分の争いについて給付訴訟を提起することはできず、確認の訴えによる他ないから方法選択の適切性はある。
対象選択の適切性があるといえるには、自己の現在の法律関係の積極的確認である必要がある。具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となるべき遺産分割の基準としての割合に過ぎず、それ自体は実体法上の法律関係ではない。
また、具体的相続分は基本的には遺産分割の過程において機能するものであり、その価額や割合が訴訟で確定されても、相続人・遺産の範囲などが変わった場合には紛争の終局的解決にはならない。そのため、遺産分割審判事件を離れて具体的相続分のみを別個独立に判決によって確認することが、紛争の直接的かつ抜本的な解決とは言えない。
したがって、即時確定の利益に欠ける。
よって、対象選択の適切性がない。
2. 以上より、確認の利益が認められず、Xのかかる確認の訴えは不適法である。
(2)について
1. 後訴におけるYの主張は、前訴判決の既判力(民事訴訟法(以下略)114条1項)に抵触し、裁判所は、後訴でのYの主張を審理すべきでないのではないか。
⑴
ア 「主文に包含するもの」(114条1項)とは、訴訟物たる権利法律関係の存否に関する判断のみをいい、理由中判断は含まれない。なぜなら、訴訟物についてのみ既判力を及ぼせば紛争解決としては十分であるし、判断が容易なものから審理することが可能となり、審理の簡易化・弾力化に資するからである。そのため、114条に基づく既判力が作用するのは、前訴と後訴の訴訟物どうしの関係が、同一、先決、矛盾関係のいずれかにある場合をいう。
イ 本件では、Xの請求棄却の前訴判決が確定しているから、事実審口頭弁論終結時における、XのYに対する1000万円の貸金債権の不存在につき、XY間で既判力が生じている。
後訴の訴訟物は不当利得返還請求権であり、これは前訴の訴訟物と同一ではなく、矛盾・先決関係にもない。
ウ よって、Yの主張は既判力により遮断されない。既判力が及ばず、審理されるべきと思える。
⑵ もっとも、理由中判断であっても、前訴で主要な争点として争われた点についての裁判所の判断に生じる通用力たるいわゆる争点効が認められるとする見解がある。
しかし、争点効についての明文規定がなく、要件は曖昧である。また、審理の簡易化・弾力化を図るべく原則として既判力が生じる範囲を訴訟物に限定したことと矛盾する。そして、理由中判断については中間確認の訴えが設けられているし、何が主要な争点といえるかは不明確である。
よって、争点効は認められないと解する。
⑶ では、Yの主張は信義則(2条)に反しないか。
ア 前訴で争うことができたにもかかわらず争わなかった争点について、後訴においてはじめて争うことは、相手方の信頼を害するため、実質的な紛争の蒸し返しとなり、信義則に反し許されない。
イ 本件で、Yは、前訴では本件貸金債権の成立を認めた上で、弁済の抗弁のみを主張している。そのため、本件貸金債権の成立は争っていないため、本件貸金債権の存在を認めていたといえる。そうすると、相手方であるXにも、本件貸金債権の存在自体は争わないという信頼が生まれる。そのため、後訴におけるYの主張は、上記の信頼を害する。そのため、実質的な紛争の蒸し返しといえ、信義則に反し許されない。
よって、Yの主張は、訴訟上の信義則に反し許されない。
2. 以上より、裁判所は、後訴でのYの主張を審理すべきでない。
以上