2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
北海道大学法科大学院2023年 刑事訴訟法
設問1
1. 甲によるA宅内の捜索及び乙名義のクレジットカードの差押えは適法か。
⑴ まず、検察官による捜索差押えは憲法35条1項、刑事訴訟法218条1項により捜索
差押令状に基づいて行われなければならないのが原則である。もっとも甲による捜索差押えはこれを得ずに行っているため甲による捜索差押えは原則違法となる。
⑵ もっとも、本件では、Aに対する逮捕状が発付されており、Aを適法に逮捕できる状況である。そこで、甲による捜索差押えは逮捕に伴う捜索差押え(220条1項2号)として適法とならないか。本件では、捜索差押え時にはAは不在であり甲が寄託してから逮捕しているため、「逮捕する場合」になされたといえるかが問題となる。
ア そもそも、憲法35条1項及び刑事訴訟法218条1項で捜索差押えに原則令状を要するとした趣旨は、手続の公正を担保し被処分者の人権を保護する点にある。そして、かかる原則の例外として220条1項2号で無令状による捜索差押えが適法なものとして許される趣旨は、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高いため、令状裁判官の事前審査を介さなくとも「正当な理由」(憲法35条1項)が認められる点にある。
そこで、「逮捕する場合」について、捜索差押えと逮捕との間に時間的接着性を有するが、証拠が存在する蓋然性は逮捕着手の前後で変化しないため逮捕の前後は問わないと解する。そして、捜索差押え時点において、被疑者が不在だったとしても、帰宅次第逮捕を行う態勢の下に捜索差押えが行われ、かつ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り「逮捕する場合」に行われたものと解する。
イ これを本件についてみると、甲はAの妻BからAはもうすぐ帰る旨を聞き、Bに逮捕状を示し捜索差押えを開始しているところ、Aが帰宅次第逮捕を行う態勢の下に捜索差押えを行っているといえる。そして捜索差押え開始から約5分後という短時間でクレジットカードを発見し差し押さえた直後にAが帰宅し逮捕している。そのため、捜索差押え開始と逮捕に時間的接着性が認められる。
したがって、帰宅次第逮捕を行う態勢の下に捜索差押えが行われ、かつ、これと時間的に接着して逮捕がなされたといえ「逮捕する場合」に行われたといえる。
⑶ 以上より、甲による捜索差押えは逮捕に伴う捜索差押えとして適法である。
設問2
1. 甲によるAバッグの中に入っていた覚せい剤の差押えは適法か。
⑴ 前述の通り捜索差押えは令状を要するのが原則である。そして、甲による捜索差押えは令状がないため原則として違法となりうる。しかし、甲はAを逮捕しており、その逮捕後に捜索差押えに着手しているため、捜索差押と逮捕に時間的接着性が認められる。また、逮捕現場であるA宅にリビングで行われているため「逮捕の現場」においてなされたといえる。そのため、逮捕に伴う捜索差押えとして甲の捜索差押えは適法になると思える。
⑵ もっとも、Aの逮捕はクレジットカード無断使用の詐欺の被疑事実に基づくものであり、覚せい剤はかかる被疑事実と関連性を有さない。そのため、甲による捜索差押えは別件の差押えとして違法にならないか。
ア そもそも令状による差押えは「差し押さえるべき物」(219条1項)すなわち被疑事実と関連する者に限られる。そして、逮捕に伴う差押えも人権保護の観点から同様に解するべきであり、また、逮捕の現場に証拠の存在の蓋然性が生じるのは逮捕できるほどに高い嫌疑が認められるからであるので、逮捕に伴う捜索差押えも逮捕の被疑事実に関連する物しか差押えできないと解する。
イ 本件においてAの被疑事実はクレジットカードの無断使用による詐欺であり、覚せい剤はかかる被疑事実と無関係である。
したがって、覚せい剤の差押えは違法となりうる。
⑶ しかしながら、覚せい剤は法禁物なので、Aを覚せい剤所持罪で現行犯逮捕(212条1項213条)した場合には、当該逮捕に伴う捜索差押えとして適法に覚せい剤を差押えすることができる。
以上