5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2025年 憲法
設問前段
1. 校長BのXに対する入学式における国歌斉唱の際の起立斉唱を求める職務命令(以下「本件職務命令」という。)は憲法19条に反し違憲か。
2. 「思想及び良心」とは、世界観・歴史観など個人の人格形成に必要なもしくはそれに関連のある内面的な精神作用をいう。
Xは、日本の歴史に関する自らの検討からして、君が代および日の丸に対し否定的な信念を持っており、式典における起立斉唱には応じられないとしている。これは、Xの人生の中で築き上げられた考えであるから、人格形成に必要な内面的な精神作用といえ、「思想及び良心」として、19条により保障される。
3. 人の内心領域における精神的活動は外部的行為と密接な関係を有するため、前者だけを保障するのでは狭すぎる。そこで、「思想及び良心の自由」には、思想・良心に反する外部的行為を強制されない自由も含まれると解する。
4. 外部的行為の強制による思想・良心の自由に対する制約の有無・態様については、一般的・客観的に判断するべきである。
学校の式典における国歌斉唱行為は、一般的、客観的に見て、慣例上の儀式的なものとしての性質を持っており、外部からもそのように認識される。そうすると、起立斉唱行為は、Xの有する世界観・人生観を否定することと不可分に結びつくものとはいえず、本件職務命令はXの世界観・人生観それ自体を否定するとはいえない。したがって、直接的制約にはあたらない。
もっとも、起立斉唱行為は、社会科教諭が日常担当する教科等や日常従事する事務の内容それ自体には含まれないものであって、一般的、客観的にみても、国旗及び国家に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。そうすると、自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる「君が代」や「日の丸」に対して敬意を表明することには応じがたいと考える者に対してこれを求める本件職務命令は、個人の歴史観ないし世界観に由来する敬意の表明の拒否と異なる敬意の表明の要素を含む外部的行為を求めるものとして、「思想及び良心の自由」に対する間接的制約にあたる。
5. 間接的制約の19条適合性は、㋐職務命令の目的、㋑職務命令の内容、㋒思想・良心の自由に対する制約の態様等を総合的に考慮して、当該命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性および合理性が認められるか否かという観点から判断する。
本件職務命令は、上記の通り間接的制約がある。また、住民全体の奉仕者として法令や上司の職務上の命令に従って職務を遂行すべきこととされる地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性(15条2項、地方公務員法30条、32条)からすれば、公立高校の教諭であるXは法令や上司の命令に従わなければいけない立場にあった。
もっとも、BはXに対して事前に丁寧な説得を試みている。さらに、本件職務命令の目的は、入学式における規律の維持及び円滑な式典の進行である。たしかにXが職務命令に従わずに着席したままであっても、積極的に入学式の進行を妨げることにはなっていない。しかし、本件職務命令は、式典における慣例上の儀礼的な所作として国歌斉唱の際の起立斉唱を求めることを内容とするものであって、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保と共に式典の円滑な進行を図るものである。
そうすると、上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。
6. したがって、本件職務命令はXの「思想及び良心の自由」を侵害するものではなく、19条に反せず合憲である。
設問後段
1. BのXに対する入学式における国歌斉唱の際にピアノを伴奏することの職務命令(以下「本件職務命令」という。)は、19条に反し違憲か。
2. 設問前段⑵と同様に、Xの君が代及び日の丸に対し否定的な信念は「思想及び良心」として、19条により保障される。
3. 外部的行為の強制による思想・良心の自由に対する制約の有無・態様については、一般的・客観的に判断するべきである。
学校の儀式的行事において君が代の伴奏をすることは、一般的には君が代に関するXの世界観・歴史観と不可分に結びつくものということはできないから、Xの世界観・歴史観それ自体を否定するものと認めることはできない。また、入学式における国歌斉唱の際のピアノ伴奏は、音楽家の教諭であれば通常想定され期待されるものであるから、伴奏をするという行為が特定の思想を有するということを外部に表明する行為と捉えるのは困難である。
よって、本件職務命令は、Xの思想及び良心の自由に対する直接的、間接的制約にはならない。
4. したがって、制約がない以上、本件職務命令は憲法19条に反しない。
以上