6/19/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2025年 刑法
1. 乙の罪責
甲と共にVを殴ったり蹴ったりし、Vを死亡させた行為に傷害致死罪の共同正犯(刑法60条、205条)が成立するか。
⑴共同正犯は正犯意思に基づく共謀と共謀に基づく実行行為がある場合に成立するところ、甲は乙に「助けてくれ。こいつをやっつけよう。」と声を振り絞りつつ呼びかけ、乙はこれを了承していることから、甲と乙の間に、Vに対する暴行につき正犯意思に基づく共謀が認められる。また、乙は上記共謀に基づき、甲と共にVを殴る蹴るという「暴行」によって同罪の実行行為を行っている。
⑵Vは多数の打撲傷や切創、さらには骨折等の負傷という「傷害」を負い、そのどれかにより死亡している。ここで、上記の致死傷結果が乙の加担する前の甲単独による殴打・蹴り上げから発生したのか、あるいは甲と乙が一緒になってVに応戦した際の殴打・蹴り上げから発生したのか、特定できていないため乙に致死傷結果まで帰責することができるか問題となる。
ア まず、乙関与前の甲単独の暴行についても承継的共同正犯として乙に帰責できないか。
60条が「すべて正犯とする」として一部実行全部責任を定めるのは、他の共犯者によって引き起こされた法益侵害と因果性を有するためである。そこで、共謀前の他の共犯者による行為の効果を利用することで、結果について因果性を有する場合には共同正犯となると考える。
本件で、乙関与前の甲単独の暴行による傷害結果については、乙が因果性を有することはない。
よって、承継的共同正犯は成立せず、乙関与前の甲単独の暴行による傷害については、これを根拠に乙に帰責することはできない。
イ (ア)では、本件で同時傷害の特例(207条)を適用して、乙に致死傷結果まで帰責することができるか。同条が「共同で実行した者でなくても」と共犯関係以外の場合を想定していると考えられることから、本件のように共犯関係がある場合にも適用できるか、また、傷害罪のみならず傷害致死罪へも適用できるかが問題となる。
(イ)共犯関係がない時でさえ同条の適用があることとの均衡から、共犯関係がある場合であっても、同条の適用は認められる。また、先行者に対し傷害結果についての責任を問うことができることは、同条の適用を妨げる事情とならない。そして、傷害致死の場合でも被害者保護や立証の困難の回避という同条の趣旨は当てはまるため、同条は傷害致死罪へも適用できる。
(ウ)本件では、乙は甲と「2人以上で暴行を加えて」Vという「人を傷害」している。そして、Vの傷害結果を「生じさせた者を知ることができない」のであり、甲と乙の暴行はそれぞれ上記Vの傷害結果を生じさせる危険性を有するもので、同一の機会に行われたものである。
以上より、甲と乙の暴行には同時傷害の特例が適用され、乙は甲の単独暴行についても共同正犯とみなされる。よって、致死傷結果がいずれの暴行から生じたものであるか明らかになっていない本件においても、乙は上記暴行の全てに責任を負うのであるから、Vの致死傷結果まで乙に帰責することができる。
⑶なお、共謀が認められる暴行と致死傷結果が因果関係を有する以上、結果的加重犯である傷害致死罪についても共同正犯を認めて良い。
⑷乙は上記暴行につき故意(38条1項本文)がある。
⑸以上より、乙の上記行為に傷害致死罪が成立し、甲と共同正犯となる。
2. 甲の罪責
単独でVに殴打・蹴り上げをし、その後乙と共にVに殴打・蹴り上げをした行為につき傷害致死罪の共同正犯が成立するか。
上述の通り、甲が乙とともに行った暴行については共同正犯が成立する。よって、甲は全ての暴行に関与しているから、Vの致命傷が乙の加担する前の甲単独による殴打・蹴り上げから発生したのか、あるいは甲と乙が一緒になってVに応戦した際の殴打・蹴り上げから発生したのか、特定できていないとしてもVの死亡結果を甲に帰責できる。また、甲も上記暴行につき故意がある。
したがって、甲の上記行為に傷害致死罪が成立し、乙と共同正犯となる。
以上