4/7/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2024年 刑法
問1
1. ⑴甲は、X車に甲車を追突させ、鞭打ち症という生理的機能の障害を与えており、Xに傷害を負わせたため、傷害罪(刑法(以下略)204条)が成立すると思われる。
⑵もっとも、甲はXを傷害することについてXの承諾を得ている。そのため、違法性が阻却しないか。
被害者の同意がある場合は違法性を阻却すると考える。違法性とは社会倫理規範に違反する法益侵害又はその危険であるところ、被害者の同意がある場合には、当該行為が社会的に不相当とまではいえないからである。
とはいえ、全ての同意が違法性を阻却するのではなく、社会的に相当と認められる限度においてである。具体的には、単に承諾が存在するという事実だけでなく、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきである。
本件において、甲は保険金名目下に金員を詐取しようという動機の下に承諾を得ており、目的の社会的悪性が強い。また、衝突行為から発生した結果は偶然、加療2週間程度を要するむち打ち症であったが、自動車を衝突させる行為は大きな社会的危険を惹起するおそれのある行為である。
したがって、社会的相当性は認められず、同意による違法性阻却はない。
⑶よって、甲にはXに対する傷害罪が成立する。
2. また、甲の衝突行為によってX車がBに衝突し、Bは全身打撲傷の傷害を負っている。そのため、甲にはBに対する傷害罪が成立しないか。
⑴もっとも、Bの傷害結果発生には、Xの足がブレーキペダルから離れたという介在事情が存在するため、因果関係の有無が問題となる。
因果関係の存否は、条件関係を前提に、当該結果が内包する危険が結果として現実化したかという観点から決するものと解する。具体的には介在事情の寄与度、介在事情の異常性を検討して決する。
Xがブレーキを踏んでいれば、Bに衝突することはなく、Bの傷害は生じなかったため、条件関係はある。次に法的因果関係について、Xがブレーキを踏んでいれば、Bの傷害は生じなかったため、寄与度は一定程度認められる。もっとも、時速30kmで後方から車を衝突させた場合に、ブレーキから足が思わず離れてしまうことは通常ありうることであり、介在事情としての異常性は低く、介在事情は行為から誘発された物である。よって、甲車を衝突させる行為の有する、衝突の衝撃によってXの足がブレーキから離れてX車が前進してB車に衝突する危険が、現実化したものいえる。
したがって、因果関係は認められる。
⑵もっとも、甲にはBの存在を認識しておらず、Xだけに傷害を負わせる意思しか有していない。この場合、Bに対する傷害の故意が認められないのではないか。
故意責任の本質は犯罪事実の認識によって反対動機が形成できるのに、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難である。そして、犯罪事実は刑法上構成要件として類型化されており、かつ、各構成要件の文言上、具体的な法益主体の認識までは要求されていないと解されるから、認識した内容と発生した事実がおよそ構成要件の範囲内で符合していれば犯罪事実の認識があったと考えられ、故意が認められると考える。
また、このように故意の対象を構成要件の範囲内で抽象化する以上、故意の個数は問題にならないと解する。
本件では、XとBは「人」という範囲内で符合しており、構成要件的に符合している。
したがって、Bに対する故意も肯定できる。
⑶よって、甲にはBに対する傷害罪が成立する。
3. 以上より、甲にはXに対する傷害罪とBに対する傷害罪の罪責を負い、これらは甲車をX者に衝突させるという一つの行為によって、結果を実現しているから観念的競合(54条1項前段)となる。
問2
設問⑴
罪名:傷害致死罪
罰条:刑法205条
設問⑵
罪名:傷害罪
罰条:刑法204条
設問⑶
①刑法は第一次的に、国民に対してどのような行為が禁止されているかを示す規範である行為規範であり、そうすると人々が行為を行う時点で因果関係が判断できなければならず、したがって、因果関係の判断の基礎となる事情は一般人が認識可能な事情に限られることになる。
②行為と結果との客観的なつながりを問題にする因果関係において、一般人の認識可能性や行為者の認識をもとに判断基底を設定するのは不当である。
以上