6/30/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
筑波大学法科大学院2024年 憲法
1. 本件差押え行為は、Eの取材の自由を制約し、憲法21条違反とならないか。
⑴まず、報道機関の報道は、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するため、報道の自由は、憲法21条によって保障されている。
⑵そして、報道には前提となる取材は必要不可欠である。したがって、報道のための取材の自由は21条の精神に照らして十分尊重される。
2. 本件では、本件レコーダーが、P県警によって差し押さえられている。
⑴たしかに、差し押さえられたレコーダーによる取材に基づいたB社からAへの贈賄を報じる記事は、すでに掲載されているため、取材活動そのものを直接的に制約するものではない。
⑵もっとも、本件レコーダーによる取材は、Fを含むB社の社員や元社員の氏名その他具体的に誰なのかを特定し得る情報は一切記事には記載せず、録音データは複製せずに記事掲載後に消去するとの条件で、ようやく取材・録音に応じて得られたものであるから、録音データが消去されずに保管されている本件レコーダーが差し押さえられれば、報道機関の取材活動に対する信頼が失われ、報道機関の将来における取材活動が困難になりうるため、取材の自由は制約されているといえる。
3. では、かかる制約は正当化されるか。
⑴上述の通り、取材の自由は報道の自由の必要不可欠な前提を成す重要な権利である。
一方で、公正な刑事裁判の実現は、国家の基本的要請であり、こと刑事裁判においては強く実体的真実発見が要請されている。そして、このような公正な刑事裁判の実現を保障するために、報道機関の取材活動によって得られたものが証拠として必要と認められる場合、取材の自由は一定の制約に服することとなる。
⑵したがって、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決する。
⑶取材の対象であるのは、C市市長Aと地元企業B社との贈賄についてであり、国民の関心が大きい犯罪類型である。また、P県警によれば本件レコーダーは事件の全容解明に不可欠と判断されているのであるから、その証拠価値は高いといえる。そうすると、公正な刑事裁判を実現するにあたり、本件レコーダーを差し押さえる必要性が認められる。一方で、上述した通り、Eの取材活動に対する直接的な制約はなく、あくまで将来における取材活動が制約されるおそれがあるにとどまる。また、本件取材に基づく新聞記事は既に発表されているのであるから、報道の自由に対する事前の制約があったとは解されない。そうすると、D社の被る不利益よりも、公正な刑事裁判を実現すべき要請の方が大きいといえる。
4. したがって、本件差押えは、21条に違反しない。
以上