7/30/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2022年 商法
第1問
1. Bの主張
Bは、本件総会の招集通知が自身に発せられていないことは会社法(以下法令名略)299条1項に違反することを理由に、本件総会決議において、「株主総会の招集の手続…が法令…に違反」する(831条1項1号)として決議の取消を請求する(831条1項柱書)。
Bは甲会社の「株主」である。そして、本件総会決議は令和3年6月25日に行われており、現在は同年7月10日であるから「三箇月以内」といえ、期間制限については問題ない。
2. 主張の当否
⑴ 株主名簿の名義書換がされていないから、Bが「株主」(831条1項)にあたるかが問題となる。
ア 株主としての地位を会社に対抗するには株主名簿の登記が必要となる(130条2項・1項)ところ、Bは株主名簿の名義書換を得ていないから、甲社に対して株主の地位を対抗することができないのが原則である。
しかし、名義書換の制度趣旨が株主名簿による株主の集団的・画一的取り扱いを可能にし、会社の事務処理便宜を図る点にある。そうであるならば、名義書換を不当拒絶した会社は信義則(民法1条2項)に反し、かかる制度による保護に値しないといえる。
そこで、会社が名義書換を不当拒絶した場合には、株主は名義書換なくして会社に対して株主であることを主張し得ると考える。
イ 甲会社は株券発行会社であるから、株券を提示して名義書換を請求すれば、手続として十分である(133条1項・2項・会社法施行規則22条2項1号)。そして、Bは本件株券を提示して株主名簿の名義書換を請求しているから、Bは必要な手続きを履践している。
それにもかかわらず、甲会社は過失により本件株式の名義書換をしなかったのであるから、かかる拒絶は不当拒絶にあたる。
ウ したがって、Bは株主の地位を甲社に対して対抗できることができ、よって、Bは「株主」(831条1項)にあたるから、株主総会決議の取消の訴えの原告適格が認められる。
⑵ 株主総会においては、株主に対して招集通知をしなければならない(299条1項)。本件では、Bが株主なのであるから、甲社はBに対して招集通知を発しなければならない。にもかかわらずBに対する招集通知を欠いているから、299条1項に違反する。
したがって、株主総会の招集の手続…が法令…に違反」する(831条1項1号)といえる。
⑶ 「招集の手続…が法令…に違反する」場合であっても、その違反が「重大でなく」、かつ、「決議に影響を及ぼさない」ものである場合には裁量棄却の余地がある(831条2項)。
株主にとって株主総会は会社に対し意見表明をする重要な機会である。その傘下の機会を確保するのが299条1項の趣旨である。よって、招集通知が発せられていないことは、299条1項の趣旨を没却する重大な違法に当たる。したがって、裁量棄却は認められない。
⑷ 以上より、Bの主張は認められる。
第2問
1. Xは新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起して本件株式発行の無効を主張すると考えられる。かかる主張は認められるか。
Xは「株主」(828条2項2号)である。そして、株式の効力は払込時に生じる。
本件募集株式の払込金額の払込(出資の履行)が令和2年7月20日に行われているから、本件募集株式の効力は同日に生じている。Y社は非公開会社であるため、令和3年6月20日時点では効力発生から「1年以内」である。
よって、新株発行無効の訴えの提起ができる。
2. 募集株式発行は株主総会特別決議で募集事項の決定を行わなければならない(199条1項、2項、309条2項5号)。にもかかわらず、本件募集株式の発行に際して、株主総会による募集事項の決定が行われていない点で瑕疵がある。
3. 上記瑕疵が募集株式発行の無効原因となるか
⑴ 828条1項には募集株式発行の無効の訴えにおける無効原因が法定されていない。
そして、募集株式の発行は利害関係人が多数発生するから、その効力については法的安定性を重視すべきである。また、募集株式発行は取引行為としての性質も有することから、取引の安全の観点も考慮する必要がある。そこで、無効原因は重大な法令・定款違反の場合に限るべきであるもっとも、非公開会社においては、募集株式発行によって株式の持分割合に変動が生じる点で既存株主に対する不利益の程度が大きいことから、この点を考慮して非公開会社において株主総会の特別決議を欠く募集株式の発行がなされた場合には重大な法令違反として無効原因となると考える。
⑵ Y社は非公開会社である。そして、募集事項の決定について株主総会を欠いている。
本件募集株式発行は1株1万円で5万株を発行するものであり、その総額は5億円である。Y株式会社の資本金の額が10億円であることを考慮すれば、本件募集株式発行の規模は大きく、かかる株式発行を取消せば法的安定性・取引安全を害する程度が大きいといえる。
一方で、Y会社は非公開会社であるところ、非公開会社における既存株主の持ち株比率に対する利益は特に保護する必要がある。同社の発行済株式総数は10万株であり、本件募集株式発行の発行株式数は5万株であるから、既存株主の株式保有比率を大きく変動させるものであるといえる。
募集株式発行無効の訴えの提起期間を公開会社においては6カ月とする一方、非公開会社では1年としている(828条1項2号)ように、会社法は非公開会社における株主の持株比率に対する利益を特に保護しようとしている。そうであるならば、上記のような法的安定性・取引の安全に対する弊害があるとしても、既存株主の持ち株比率に対する利益の方が保護する必要が高いといえる。
したがって、本件募集株式発行について株主総会の特別決議を得ていないという瑕疵は、募集株式発行の無効原因となる。
以上