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2025年 民事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2025年 民事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】

7/2/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

東京大学法科大学院2025年 民事系

設問1

1. C社のAに対する所有権(民法(以下、設問1に限り法名略)206条)に基づく妨害排除請求権としての本件土地の抵当権設定登記の抹消登記手続請求は認められるか。

2. C社は、本件土地を所有しており、また、A名義の抵当権(369条1項)設定登記が存するから、請求原因を充たす。

3. これに対し、Aは登記保持権原の抗弁を主張する。
 2020年4月2日にAはBに対し5000万円を貸し付け、かかる甲債権を担保するために、C社はC社の所有する本件土地について抵当権設定契約を締結している。
 よって、抵当権設定契約は有効であり、同契約に基づく抵当権設定登記は権原に基づくものである。

4. これに対し、C社は甲債権が消滅時効(166条1項1号)によって消滅し、付従性により抵当権も消滅すると主張する。

⑴甲債権の弁済期は2022年4月1日であり、2027年5月1日の時点でA「が権利を行使することができることを知った時から5年間」が経過している。

⑵では、C社は甲債権の消滅時効を援用できるか。物上保証人であるC社が「権利の消滅について正当な利益を有する者」(145条かっこ書)に当たるかが問題となる。
 この点、 物上保証人は被担保債権の消滅によって物的負担を免れるという利益を直接受ける者であるから、「権利の消滅について正当な利益を有する者」にあたる。

⑶ したがって、物上保証人たるC社は甲債権の消滅時効を援用できる。

5. これに対し、Aは消滅時効が更新されたと反論する。すなわち、Bが時効が完成する前の2024年4月1日に甲債権の一部弁済としてAに1000万円を支払っているところ、一部弁済は債権が存在することを前提とする行為であるから「権利承認」(152条1項)にあたり、時効が更新されたと反論する。

⑴この点、時効の更新は「更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみその効力を有」し相対効であるから(153条3項)、AB間で時効が更新されてもC社には時効の更新の効力が及ばないとも思える。
 しかし、物上保証人は、①主債務が消滅すれば物的負担を免れる立場にあること、②消滅時効の援用権を有すること(145条かっこ書)、➂①②にもかかわらず、債権者は物上保証人との関係で、主債務の消滅時効の完成を直接阻止する手段がないことから、債権者と債務者との間における時効の更新の効力が物上保証人にも及ぶとしなければ、債権者が固有の時効援用権を有する物上保証人に対して時効の完成を阻止できないという不合理な結果を生ずる。そこで、物上保証人は「当事者」(153条3項)であり、時効の更新の効力が及ぶと解する。

⑵したがって、物上保証人たるC社も「当事者」であり、時効の更新の効力が及ぶ。

⑶以上から、甲債権は消滅せず抵当権も消滅しない。

6. よって、C社のAに対する抵当権設定登記の抹消登記手続請求は認められない。

設問2

1. Aが甲債権の残部4000万円の支払を請求して本訴を提起している際に、別訴でこれを相殺の抗弁として提出することは適法か。
 相殺の抗弁は攻撃防御方法にすぎず、「訴えを提起」(民事訴訟法(以下、設問2に限り法名略)142条)には当たらず、同条は直接適用されない。もっとも、別訴で相殺の抗弁として提出すれば「事件」が同一であり、当事者もABと同一であるから、二重起訴の禁止に触れる。そこで、同条を類推適用すべきかが問題となる。

2. 適法説は以下の論拠から142条の類推適用を否定する。
 まず、相殺の抗弁の提出を否定すると、別訴の訴訟物である債務を履行しなければならないのに他方で本訴の訴訟物である債権の支払いを受けられない可能性があり、かかる不利益を回避するために相殺を認めるべきである。また、重複起訴状態を解消する方法としては、本訴の取下げと、本訴と別訴の弁論の併合が考えられるが、訴えの取下げには基本的に相手方の同意を要するし(261条2項)、弁論の併合(152条1項)は裁判所の裁量で行われるから、相殺権者が自分で重複起訴の状態を解消することはできず、相殺の担保的機能を侵害する結果となる。

3. 一方、判例が採る不適法説は以下の論拠から142条の類推適用を肯定する。
 そもそも、同条の趣旨は訴訟不経済・既判力の矛盾抵触・相手方の応訴の煩の回避にある。そして、前訴で訴求された債権が、後訴において相殺に供されている以上、審理の重複による訴訟不経済が発生するおそれがあるし、応訴するのと同様の煩が相手方に生じる。また、相殺のために主張した債権の存否の判断には既判力が生じる(114条2項)ので、その矛盾抵触のおそれもある。
 よって、142条の趣旨すべてに反するから同条を類推適用し、抗弁の提出を不適用とすべきである。 

4. では、Aの相殺の抗弁は適法か。
 この点、訴えを提起した者は、訴求債権を相殺の抗弁に供することができなくなる不利益を感受すべきであり不適法説が妥当であるとの意見が想定されるが、本訴を提起した後に別訴が提起される場合など、常に別訴が提起されることを本訴提起時点で予見できるとは限らず、かかる意見は妥当でない。
 一方で、民事訴訟の究極的な目的は適切な紛争解決であるところ、適法説を採り既判力が矛盾する結果になれば、権利関係の混乱を招き適切な紛争解決を図ることができない。そこで、不適法説が妥当である。
 以上から、Aの相殺の抗弁は不適法である。

設問3

1. 本件請求の法的根拠として、①委任契約(会社法(以下、設問3に限り法名略)330条)に伴う退職慰労金支払契約に基づく退職慰労金請求権、及び②339条2項に基づく損害賠償請求権が考えられる。

2. ①

⑴①の要件は、㋐取締役に就任し、㋑退任したこと、㋒退職慰労金の支払いの合意又は慣行があること、㋓退職慰労金請求権が具体的な支払請求権として発生していることである。㋐㋑については明らかに充たす。

⑵㋒
 退職慰労金の額を算定する本件内規は、DがC社の取締役に就任した時から存在していたから、C社において、少なくとも退職慰労金の支払いの慣行があった(㋒充足)。

⑶㋓

ア 退職慰労金は、職務執行の後払い的性格を有すること、及び退職慰労金もお手盛りの危険があることから、「報酬等」(361条1項柱書)に当たる。そのため、「定款」ないし「株主総会の決議」を経なければ、具体的な支払請求権は発生しないところ、C社の定款に退職慰労金の支払いについて定められているという事情はない。では、「株主総会の決議」はあるか。

イ 本件「総会」で「決議」されたのは、『任期満了で退任する』C社の取締役(以下「任期満了取締役」)についての退職慰労金の支払いであり、任期満了前に解任される取締役(以下「中途解任取締役」)の退職慰労金の支払いについては「決議」されていない。Dは、2025年6月に任期が満了する予定だったがその前の2024年6月に解任されており中途解任取締役であるから、本件決議によっては、中途解任取締役たるDの退職慰労金請求権は具体的な支払請求権となっていない。

ウ また、Dの就任時点で本件内規が存在したこと、本件内規の内容が任期満了取締役と中途解任取締役を区別していないこと、EがC社の株式の90%を保有する大株主かつ代表取締役であり、当然本件内規の存在を把握していたと考えられることから、Dの就任時点では、Dが途中で解任されたとしてもDに退職慰労金を支払うことにEは同意していたとも考えられる。そして、EがC社のほとんどの株式を有することから、Eの同意をもって株主総会の決議と同視できるとも思える。
 しかし判例は、総株主の同意をもって総会決議と同視できるとしており、全員の同意を要件としているから、90%の同意をもって株主総会の決議と同視できるとはいえない。

エ 以上から、中途解任取締役たるDの退職慰労金請求権は、具体的な支払請求権として発生していない(㋓不充足)。

⑷したがって、①を根拠とすることができない。

3. ②

⑴まず、Dは取締役を「解任」(339条2項)されているところ、解任に「正当な理由」はあるか。

ア 本条は、株主総会による解任の自由の保障と役員等の任期に対する期待の保護の調和を目的とした法定責任である。時期、理由を問わず解任を認める(同条1項)以上、「正当な理由」は限定的に解すべきである。
 また、経営判断の失敗が「正当な理由」とすると、取締役の経営判断が委縮するおそれがある。実際上、経営能力の有無と役員・株主間の対立を背景とした解任との区別は困難である。よって、一定の合理性の認められる経営判断は、事後的に客観的には失敗であったと言える場合でも「正当な理由」にはあたらない。

イ Dの解任は、抵当権が実行される危険を生じさせたこと、ないし、それをきっかけとして、代表取締役兼90%を支配する株主であるEとの間に紛争が生じた点にある。そして、抵当権が実行される危険が生じるか否かが客観的に自明な事案ではなく、Dは一定の合理性のある経営判断をしたと言える。

ウ よって、「正当な理由」は認められない。

⑵次に、「損害」に、Dが解任されなければ支払われたであろう任期満了取締役としての退職慰労金は含まれるか。

ア 「損害」とは、役員を解任されなければ支給されたであろう報酬等である。退職慰労金も、支払われたであろう蓋然性が高ければ、「損害」に含まれる。

イ 上記の通り、Dの就任時から本件内規が存在していたこと、加えて、任期満了取締役については本件内規をベースに金額を算定し退職慰労金を支払う旨が本件総会で決議されていることから、Dが本件総会により解任されず2025年6月までの任期を満了していれば、本件内規に基づき退職慰労金が支払われたであろう蓋然性が高いとも思える。
 しかし、Dが解任されたのは本件総会であり、本件総会においてはじめて、任期満了取締役に退職慰労金を支払う旨が決議され、具体的な支払請求権として発生している。そうすると、本件総会より前には、中途解任取締役のみならず任期満了取締役の退職慰労金についても具体的な支払請求権として発生していなかった。したがって、役員を解任されなければ支給されたであろう蓋然性は高いといえない。

ウ したがって、Dが任期満了取締役であるとすれば支払われたであろう退職慰労金は、「損害」に含まれない。

⑶したがって、②を根拠とすることができない。

4. 以上から、本件請求は認められない。

以上

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