11/22/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2022年 商法
第1問
会社が株主に500円のQuoカードを進呈することは、「株式会社」による「財産上の利益」の「供与」(120条1項)にあたる。しかし、形式的に利益供与にあたる行為であっても、①供与目的の正当性➁供与金額の相当性③供与総額の相当性が認められるときには、会社支配の公正と会社財産の保護という同条の趣旨に反せず許容されるところ、本件のカードの進呈は、会社提案議案と株主提案議案が競合している状況で、会社提案に賛成することを株主に呼びかけつつ、議決権を行使した株主に対して行われているため、会社提案に賛成するよう利益による誘導が行われているとみることができる。そのため、株主の権利行使に影響があるおそれは否定できず、①を満たさない。したがって、本問における会社の行為は、利益供与に該当し、違法である。
第2問
「重要な財産」の譲渡をするには、取締役会による決定が必要である(362条4項1号)。もっとも、対外的業務執行権(349条4項)を有する代表取締役の行為は、表示行為としては有効に成立するものと言わざるを得ない。そうすると、当該行為は、有効な取締役会決議による業務執行の決定を欠くとしても、内部的意思決定を欠くに過ぎないため、相手方が悪意又は有過失の場合に限り無効になるものと解する(民法93条1項但書類推適用)。
第3問
報酬に関する株主総会の決議により、具体的な報酬支払請求権が発生する(361条1項)。そして具体的報酬請求権が発生した場合、それが会社と取締役との委任契約の内容となるため、当事者双方を拘束し、取締役の同意がない限り、原則として会社が一方的に報酬額を変更することはできない。
したがって、取締役が不適切な経営判断をした場合、原則として会社は当該取締役の報酬を減額することができない。
第4問
募集株式の発行によって引受人らが総株主の議決権の過半数を有することになる場合には、当該株式発行により新たに会社支配権を有する株主が現れる点で、かかる事態は組織再編に準じる会社の基礎にかかわる事項といえる。そのため、会社の所有者である株主、が自ら会社の基礎の変更についての意思決定にかかわる機会を保障する必要があるから206条の2の定めがある。
第5問
会計帳簿は、株主が取締役等の任務懈怠などを判断するための重要な資料である一方で、会社財務についての詳細な情報や事業上の秘密に当たる情報が含まれているため、株主に会計帳簿の閲覧謄写請求権を無制限に認めると、流出した情報が悪用されて、会社及び株主全体の利益が害されるおそれがあるからである。
以上