6/23/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
岡山大学法科大学院2024年 商法
問1
1. YのXに対する担保提供の申立て(847条の4第2項、3項)は認められるか。
2. Xは「株主」であり、Yを被告とする株主代表訴訟を提起しているから「責任追及・・の訴えを提起した」にあたり、Yは担保提供の「申立て」(同条2項)をしている。
「悪意」(同条3項)とは、原告の請求に理由がなく、原告がそのことを知って訴えを提起した場合か、原告が株主代表訴訟の制度の趣旨を逸脱し、不当な目的をもって、被告を害することを知りながら訴えを提起した場合をいう。
Yは本件土地の所有権移転登記手続きを求めているから請求に理由はある。また、経済ジャーナリストとしての自己の売名を目的の一つとしていたものの、本件土地の所有名義をA社に移転することをも目的としている。そのため、不当な目的をもっているとも言えない。
3. よって、YのXに対する担保提供の申立ては認められない。
問2
1. XのYに対する、本件土地の所有権移転登記手続き請求は認められるか。
2⑴XはA社の「株主」である。そして、被告であるAは被告適格を有する「株式会社」である。また、、取締役Yは「役員等」にあたる(847条1項)。
⑵そして、代表取締役Bは取締役Yと売買契約をしているから、YはBに対して、本件売買契約に基づき、所有権移転登記手続きをする義務を負う。では、このような義務が「責任」に当たるか。
たしかに、会社が責任追及を怠る可能性が高いという事情は取締役が負う一切の債務にあてはまる。しかし、取締役の責任の追及という代表訴訟の性格と、「役員等・・の責任」という文言が表す意味内容を勘案すべきである。このような観点からみると、取引上の債務の履行については忠実義務(355条)を負う取締役として当然為すべきことであるとして、取締役の問題である。これに対して、取締役が職務遂行とは関係なく会社に対して負った不法行為責任などについては、取締役が取締役として負っている責任の範囲からは外れると解するのが自然である。
そこで、取締役の会社に対する責任(423条1項等)に加えて、取締役が会社に対して負担するに至った取引上の債務も含まれると解する。
上記の所有権移転登記手続き義務は、売買契約に基づいて生じたものであるから、取締役が会社に対して負担するに至った取引上の債務にあたる。
⑶そして、Xは「不正な利益を図り又は・・損害を加えることを目的」(同条但書)としていない。
3. したがって、XのYに対する請求は認められる。
以上