4/3/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
北海道大学法科大学院2024年 刑事訴訟法
問1
1. 職務質問の法的根拠
職務質問については警察官職務執行法(以下「警職法」)2条1項に定められており、これが職務質問の法的根拠である。同項では、「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」「を停止させて質問することができる」と規定されている。
甲は、わざと警ら中のPらと目が合わないようにしていると思われ、さらに落ち着きがなかったことから、「異常な挙動」が認められ、「合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」に当たるから、甲への職務質問は適法である。
2. 所持品検査の法的根拠
他方、所持品検査については上記職務質問のような明示的な規定は存在しない。しかし、所持品検査は、職務質問(警職法2条1項)に密接に関連して実効性を上げるものだから、職務質問の付随行為として適法であると解すべきである。もっとも、所持品検査は任意の職務質問の付随行為として許容される以上、所持人の承諾を得て行うことが原則である。もっとも、承諾がない場合でも、必要性や緊急性、相当性に応じて例外的に適法となる場合がある。
上記の通り、甲への職務質問は適法であるから、甲の承諾を得て行う場合には、甲への所持品検査は職務質問の付随行為として適法である。
問2
1. 呼気検査のための降車の求めを拒み、自動車を発進させようとした甲の自動車の運転席の窓から手を差し入れて、エンジンキーを引き抜いて取り上げたPの行為(以下「本件行為」という)は「停止させ」る行為(警職法2条1項)として適法か。
2. 同条3項では、「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され…ない」と規定されている。「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)に当たる場合には、「この法律に特別の定がある」ことが必要である。では、本件行為は強制処分に当たるか。
⑴「強制の処分」とは、強制処分法定主義と令状主義の両面にわたり厳格な法的制約に服させる必要があるものに限定されるべきである。したがって、「強制の処分」とは、①相手方の明示または黙示の意思に反して、②その重要な権利・利益を実質的に制約する処分をいうと解する。
⑵①について、甲は降車を拒否して自動車を発進させようとしているから、エンジンキーを引き抜く行為は、発進を阻止するための行為であり、甲の黙示の意思に反する(①充足)。
②についてエンジンキーの取上げは、自動車での移動を困難にするのみであり、特に身体を拘束するものではない。また、車両は公道上に停車していたから、プライバシー性も減退している。そのため、重要な権利利益を実質的に制約する処分に当たらない(②不充足)。
⑶したがって、強制処分に当たらない。
3. もっとも、任意処分であるとしても、人権侵害の危険性がある以上、「必要な最小の限度において」しなければならない(警職法1条2項)そこで、任意処分であっても、必要性・緊急性などを考慮した上、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。
⑴本件において、甲から酒の臭いがしたこと、甲は午前1時のすすきの地区の飲み屋街という居酒屋が多数営業している時間・地区にいたことから、飲酒運転をしている蓋然性が高かった。飲酒運転を続けると、交通事故による生命・身体・財産という重要な権利への侵害が発生するおそれがあるため、本件行為をして自動車運転を止める必要性及び緊急性は高かった。
⑵一方、本件行為によって甲が自由に手段を選択して移動するという自由が侵害されることになるが、全く移動ができなくなるものではなく、単に自動車での移動ができなくなるにすぎないため、権利制約の程度は小さい。また、エンジンキーを引き抜いた後、その場に長時間留め置いたという事情はない。そして、飲酒運転は重大な犯罪であるため、呼気検査をすることによって得られる利益は大きい。
⑶したがって、本件行為は、上記必要性緊急性の高さを考慮すると、具体的状況の下で相当と認められる。
4. 以上より、本件行為は適法である。
以上