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2023年 刑法 明治大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑法 明治大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

明治ロー 2023年度 刑法

設問1

The Law School Times【ロー入試参考答案】

明治大学法科大学院2023年 刑法

1. 甲は乙がトイレに入っている隙に、乙がベンチに置いたままにしていたビジネス鞄を持ち去っている(以下「本件行為」とする)が、甲に窃盗罪(刑法(以下略)235条)が成立しないか。

⑴ 窃盗罪は「他人の財物」を「窃取」したことで成立が認められる。また、本罪の保護法益は占有であることから、「他人の財物」は他人が占有する財物を指し、「窃取」するとは、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させることを意味する。
 本件では、乙はビジネス鞄をベンチに置いたまま、トイレに向かっていることから、本件行為を甲が行った当時、乙がビジネス鞄の占有をしていたといえるのかが問題となる。

ア 刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であって、占有の事実と占有の意思から構成される。しかし、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないため、社会通念によって決するほかはない。
 具体的には、領得の時点での被害者と財物の時間的場所的近接性に照らして、財物自体の特性、財物の置かれた場所的状況、被害者の認識・行動などの諸要素を総合的に考慮すべきである。

イ 本件では、乙はベンチから約10メートルしか離れていないトイレに約5分間用を足すために入っていたことから、被害者乙とビジネス鞄は時間的場所的にかなり近接していたといえる。また、乙は鞄を置き忘れたわけではなく、用と足したらすぐ戻る意思であり、かつ鞄の場所を認識していた。このことから、乙によるビジネス鞄に対する実力的支配がなお及んでいるといえる。

ウ したがって、ビジネス鞄は乙が占有する「他人の財物」であり、その「他人の財物を」甲は本件行為によって乙の意思に反して自己の占有に移転させていることから「窃取」したといえる。

⑵ 窃盗罪の成立には、主観的構成要件要素として、故意(38条1項本文)及び不法領得の意思が必要になるところ、本件では甲は専ら服役の目的でビジネス鞄を窃取しており、証拠品として提出する以外の用途に使用しようという意思はないことから、不法領得の意思のうち、特に利用処分意思がないのではないか。

ア 利用処分意思は、不法領得の意思の内容の一つであり、経済的用法に従い利用・処分する意思である。これは窃盗罪と毀棄罪との区別をするために必要とされる意思である。利用処分意思は、窃盗罪と毀棄罪の法定刑を比較した時に前者の方が重いことの根拠として占有侵害の目的を財物の利用可能性の取得に限定するための要件である。そのため、その財物自体を利用する意思を要すると解すべきである。

イ 本件において、甲はわざと軽い罪で捕まって刑務所に服役することを目的として本件行為に及んでおり、かつ本件行為後すぐに自首するために警察に提出する以外の目的で使用する意思もなかった。このことから、ビジネス鞄及びその中身を利用する意思がない以上、利用処分意思は認められない。

⑶ 以上より、甲には窃盗罪は成立しない。もっとも、器物損壊罪(261条)は成立するか。本件行為が「他人の物を損壊」したといえるのかが問題となる。

ア 「損壊」とは物の効用を害することをいい、物理的に壊す場合だけにとどまらず、その物の本来の用途に従って使用することができなくすることも「損壊」に含むと解する。

イ 本件行為によって、乙がビジネス鞄及びその中身を使用することが阻害されている。そのため、ビジネス鞄の本来の用途の使用ができなくなったといえ、「他人の物を損壊」したといえる。かかる構成要件該当事実の認識認容もあるから、故意も認められる。

⑷ 以上より、甲には器物損壊罪が成立する。

設問2

1. 乙に窃盗罪が成立する立場

⑴ 乙が、乙自身の所有するビジネス鞄を甲から取り返した行為(以下「本件自救行為」という)について、甲に対する窃盗罪(235条)が成立すると考えられる。

⑵ 窃盗罪の客体は「他人の」所有する財物であるが、例外として242条で「自己の財物であっても、他人が占有」する物であるときは、「他人の財物とみなす」と規定されている。これは、自力救済禁止の観点から窃盗罪の保護法益     が占有それ自体であると解すべきであるためである。そして、「窃取」とは占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転することを意味する。

本件において、ビジネス鞄は甲が占有している物であるから、他人の占有に属する「財物」にあたる。そして、乙は鞄を奪還することで、占有者甲の意思に反してビジネス鞄の占有を移転しており、「窃取」したといえる。

⑶ また、故意や不法領得の意思も認められる。

⑷ よって、窃盗罪の構成要件該当性が満たされている。

⑸ もっとも、自救行為の場合、違法性が阻却されるのではないかとも思われる。

ア 自救行為とは、法益を侵害された者が、法律上の正規の手続きを通しての損害の回復によらず、自らその救済を図る行為を指し、自救行為は原則として禁止である。法治国家においては権利の救済は公権力によるべきものであって、自救行為は現在の法秩序と相容れないが、直ちに救済を図らなければ後日の救済が事実上不可能ないし著しく困難となり、自救のためになされた行為がその事態における直接的な侵害回復行為として社会通念上相当である場合には、自救行為の違法性が阻却される。また、主観的要素として自救の意思も必要である。

イ 本件において、乙が甲を発見したのはB交番の近くであり、かつ、甲は高齢であり逃げ足も早くないと考えられるため、交番で警察官に救済を求めることは可能であった。そのため、救済が事実上不可能ないし著しく困難な場合とはいえず、かつ自首しようと交番の前まで来ている甲の背後から不意をついて奪還せず、一度声をかけるなどの方法も考えられたことから、社会通念上相当であるとは言えない。

ウ よって、違法性は阻却されない。

⑹ 以上より、乙には窃盗罪が成立する。

2. 乙に窃盗罪が成立しない立場

⑴ 乙の本件自救行為について、窃盗罪は成立しないと考えられる。

⑵ 確かに、窃盗罪の客体は「他人の」所有する「財物」であり、例外として242条で「自己の財物であっても、他人が占有」する物である場合は、「他人の財物とみなす」と規定されている。しかし、242条でいう「占有」は「平穏な占有」を指す。
 本件では、甲の占有は違法な占有であり、所有者乙との関係では平穏な占有ではない。そのため、「他人の財物」とはみなされないため、ビジネス鞄は窃盗罪の客体には当たらない。

⑶ 以上より、乙には窃盗罪が成立しない。

(*1と同じように構成要件を認めつつ、社会通念上相当な自救行為として違法性を阻却するという考えもあり得る。)

以上

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