広告画像
2025年 刑法 九州大学法科大学院【ロー入試参考答案】
後で読むアイコンブックマーク

2025年 刑法 九州大学法科大学院【ロー入試参考答案】

5/12/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

九州大学法科大学院2025年 刑法

設問1

1. 甲がAの後方から甲車を追突させた行為につき、殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

2. 甲は、甲車をAに衝突させてAを転倒させた(以下「第一行為」という。)後、身動きの取れなくなったAをナイフで刺突し(以下「第二行為」という。)、殺害する予定であったが、実際には第一行為しか行っていない。そこで、第一行為の時点で第二行為を通じた結果発生の現実的危険が生じたとして、第二行為の「実行に着手」(43条本文)したといえないか。

⑴「実行に着手」とは、その文言と実質的処罰根拠より、①構成要件該当行為に密接し、②既遂結果発生の現実的危険性を有する行為をいうと解する。行為者の計画も考慮に入れ、(a)構成要件該当行為を確実かつ容易に行うための準備的行為の必要不可欠性、(b)準備的行為以降の計画遂行上の障害の存否、(c)両行為の時間的場所的近接性などを総合して判断する。

⑵本問において、甲は自身の体格がAとさほど変わらず、取っ組み合いになった場合には逆にやられてしまうかもしれないと考えて、まずはAの動きを止めるために甲車を衝突させて、Aを転倒させることを計画している。Aが身動きを取れなくなれば、ナイフで刺す時に抵抗されることがないと考えられるから、第一行為は殺害行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であったといえる。そして、甲は転倒させた後に殺害を計画していることから、時間的場所的近接性も認められ、準備的行為以降の計画遂行上の障害があるという事情は見当たらない。以上からすれば、第一行為が構成要件該当行為に密接し、既遂結果発生の現実的危険性を有する行為といえる。
 よって、第一行為によって殺人罪の「実行に着手」したものと言える。
 一方、Aは、意識を取り戻しおり、結果が発生していない。

3. 次に、Aは客観的に第一行為によって死亡しているところ、甲は第二行為でAを殺害しようと思っていたのであるから、認識と客観に乖離があり、殺人罪の故意(38条1項本文)を認められないのではないか。

⑴ 故意責任の本質は、犯罪事実の認識によって、規範の問題に直面し、反対動機が形成可能できるのに、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難である。犯罪事実は、刑法上構成要件として与えられているところ、行為者が事前に予見した因果経過と実際の因果経過とが、危険の現実化の範囲内で符合しているならば、認識と客観が構成要件的評価として一致しているといえるから、故意責任を問える。

⑵甲が予見したのは、第二行為の危険がAの死として現実化する因果経過といえ、上記実際の因果経過と、行為の「人を殺」す危険が現実化したという範囲で符合するので故意も認められる。
 以上より、殺人未遂罪が成立する。

4. ただし、甲は自責の念を生じて殺意を喪失し、それ以上の計画を放棄しているから、中止犯(43条但書)が成立しうる。

⑴人の意思決定は何らかの外部的事情に基づいてなされるのが通常だから、これに触発されていても、やろうと思えばできたがあえてやらなかったといえるならば、「自己の意思によ」る中止があったといえると解する。
 Aは頭から血を流して路上に倒れ、気を失っていたため、当初の身動きを取れなくなったAを殺害するという計画を遂行するのは、容易であった。また、自責の念を生じていることから、純粋に悔悟の念から犯罪を中止している。よって、やろうと思えばできたがあえてやらなかったと評価できる。

⑵中止未遂の成立には、犯罪の完成を防止したことを要するから、「中止した」といえるかは、結果発生の危険性を除去したかで判断し、結果発生に向けて因果の流れがいまだ進行を開始していないならば、不作為で足りると解する。
 第一行為は、Aを死亡させる危険性はなかったのであるから、死亡に向けて因果の流れがいまだ進行を開始しておらず、甲が追撃行為を行わなかったという不作為は「中止した」といえる。
 以上より、中止犯が成立する。

設問2

1. 先行行為者の窃盗罪の実行行為後にはじめて意思連絡をし、逮捕免脱目的での暴行を認識して暴行部分にのみ加担した場合、「窃盗」をいかなる性質の要件と解すべきかで説の対立がある。

2. 一つ目の説は、文言上、「窃盗が」と犯罪主体を規定していると読めること、窃盗罪と暴行罪又は脅迫罪の結合犯と解すると、窃盗行為に実行の着手(43条)を認めることとなり妥当ではないということからは、実行行為は「暴行」・「脅迫」であり、「窃盗」は身分と解する(以下、「身分犯説」という)。

⑴身分犯説からすると、後行行為者が「窃盗」の身分を有しない点が、本罪の成否にいかなる影響を与えるのか問題となる。
  「構成」の文言から、65条1項は真正身分犯の成立・科刑を定めたものであり、「軽重」の文言から、2項は不真正身分犯の成立・科刑を定めたものと考えられる。また、非身分者も身分者を通じて身分犯の保護法益を侵害しうるから、「共犯」には、共同正犯を含む。

⑵事後強盗罪を、保護法益を全く異にする暴行罪(208条)・脅迫罪(222条)の加重類型としてみるのは無理があるから、真正身分犯と解する。よって、実行行為たる「暴行」を共謀に基づき実行すれば、「窃盗」の身分が連帯する。
 後行行為者は、先行行為者の窃盗罪の実行行為後にはじめて意思連絡をし、逮捕免脱目的での暴行を認識して暴行部分にのみ加担しており、先行行為者と「暴行」を共同したといえるから、65条1項により「窃盗」の身分が連帯する。と考えることになる。

⑶以上より、他の要件を満たす場合には身分犯説からは事後強盗罪の共同正犯が成立する。

3. 一方、「窃盗」を実行行為の一部とみる結合犯説からは、承継的共犯の成否が問題となる。

⑴承継的共犯は、①共謀と②共謀に基づく実行行為が認められれば、「共同して犯罪を実行した」として共同正犯が成立すると考えられるところ、先行行為者が窃盗をすでに行っている場合、後行行為者は、遡及的に因果性を与えることはありえないから、共謀に基づく実行行為とはいえない。

⑵よって、結合犯説からは後行行為者に事後強盗罪の共同正犯は成立しないと考える。

以上

おすすめ記事

ページタイトル
ロースクール

【最新版】ロースクール入試ハンドブック公開!全34校の説明会/出願/試験日程・入試科目・過去問リンクが一冊に!【2026年度入学者向け】

#ロースクール
ページタイトル
キャリア

法律事務所EXPO powered byカケコム 開催決定!

#ロースクール
ページタイトル
キャリアインタビュー

伝統と変革。テクノロジーと協働し、顧客の感情と向き合う弁護士を育てる。Authense法律事務所代表・元榮太一郎弁護士インタビュー【PR】