6/28/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2024年 商法
問題1
1. Aとしては、本件のBの行為は「重要な財産の処分」(会社法(以下法名省略)362条4項1号)に当たるにも関わらず、取締役会の決議を経ていないため、無効であると主張することが考えられる。
そこでまず、「重要な財産の処分」の意義が問題となる。
⑴この点について、「重要な財産の処分」といえるかは、金額の多寡、財産の性質、会社の事業との関連性、会社に与える影響の有無を考慮して判断すべきと考える。
⑵これを本件についてみると、たしかに、甲社は乙社と直接的な取引関係はなく、友好関係を築くために保有していたにもかかわらず、近年は乙社の株主総会において反対の議決権を行使するなど友好関係が破綻していると言える。よって、本件乙社株式を売却しても会社に与える影響は少ないともいいうる。
しかし取引金額が9000万円であるが本件乙社株式の公正な価値は8000万円から1億5000万円とされており、場合によっては甲社の慣行において取締役会に付議すべきとされている1億円を超える場合のある高価な金額の取引であり、また甲社の総資産が約30億であることを考えると多額の取引である。
また、甲社の本業は食品製造事業であるが、余裕資金で株式に積極的に運用していたのであり、会社の事業との関連性も少なからずある。
⑶したがって、本件のBの行為は「重要な財産の処分」にあたるといえる。
2. 本件では、「重要な財産の処分」に当たる行為を代表取締役であるBが取締役会の決議を経ずに単独で行っているが、かかる行為は無効となるか。
取締役会の決議を経ずに代表取締役がなした取引行為の効力が問題となる。
⑴この点について、取締役会の決議を欠く取引行為は、内部的意思決定を欠くにとどまる以上、取引の安全を重視し原則として有効である。もっとも、取締役会の内部的意思決定と代表者のなした意思表示に不一致があるから、心裡留保(民法93条1項)に類似する構造が認められる。そこで、同項ただし書を類推適用し、原則として有効であるが、相手方が取締役会の決議を欠くことについて悪意有過失の場合には、例外的に無効となると解する。
⑵これを本件についてみると、本件では、丙社はBが甲社の代表取締役であることは知っていたが、それ以外の甲社に関する情報は知らなかった。
そうだとすれば、丙社は内部的意思決定が欠くことについて悪意有過失はないといえる。
⑶したがって、同項ただし書を類推適用し、有効となる。
3. よって、Bの行為は有効であり、Aの主張は認められない。
問題2
1. まず、「株主総会決議取消しの訴え」は、株主総会決議に一定の瑕疵がある場合に、株主等がその決議の取消しを求める訴えであり、831条1項各号に列挙された法定事由が必要とされる。他方、「株主総会決議不存在確認の訴え」は、決議が事実上不存在の場合や、手続的瑕疵が著しく重大で決議が法律的に不存在の場合に、その不存在を確認する訴えである(830条)。
2. 類似点
両者はともに、株主総会決議の効力を争うものである。また、不存在理由として著しい手続上の瑕疵が主張される場合には取消事由と類似しうる。
3. 相違点
取消しの訴えは、決議の招集手続・議決方法等に違法があるが、なお決議としての外形が存在する場合に認められるものである。一方、不存在確認の訴えは、上述の定義の通り、決議が事実上不存在の場合や、手続的瑕疵が著しく重大で決議が法律的に不存在の場合と、その瑕疵が著しい場合に認められるものである。
また、取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければならない(831条2項)が、不存在確認の訴えには提訴期間の制限はなく、確認の利益がある限りだれでもいつでも提起することができる。
そして、取消しの訴えは形成訴訟である一方で、不存在確認の訴えは確認訴訟である。
以上