3/26/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2025年 行政法
第1問設問1
1. X社は、①に対して、厚生労働大臣に裁量権があることを認めた上で、裁量権があるとしても本件申請の承認をしないことは「裁量権」の逸脱・「濫用」(行政事件訴訟法30条)に当たり違法であるため、承認をすべきと反論することが考えられる。
⑴では、上記承認をしないことは、裁量権の逸脱・濫用に当たるか。その判断基準が問題となる。
この点、裁量処分は、重要な事実の基礎を欠く場合、又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権を逸脱・濫用したものとなると考える。
⑵本件において、厚生労働省の担当者は、X社の製造工場に不具合が見つかり乙医薬品の出荷が止まったという事態が起きたことに鑑み、X社の医薬品製造販売体制に不安があると判断した。しかし、かかる製造工場はあくまで本件申請の対象とされる甲医薬品とは異なる乙医薬品の工場である可能性があり、また、かかる事態が生じた後にX社が医薬品製造販売体制を見直し・改善等した可能性も考えられる。かかる事情は、不承認事由として「製造管理又は品質管理の方法の省令基準への不適合」を定める法14条2項4号に鑑みれば、考慮すべき事情であるが、これを考慮していない。
また、不承認事由(同法14条2項3号、4号)は、医薬品の「効能」(同項3号イ、ロ)や「品質」、安全性の観点から規定されており、供給量が低いことは不承認事由とされていない。さらに、供給量が低いとしても薬機法の最終目的である「保健衛生の向上」(1条)を直ちに害することにはならず、甲医薬品の販売を認めないことは、かえって甲医薬品により救われる人々の救いの道を絶つこととなり、上記目的に反する。したがって、医薬品の供給量が低いことは承認に際して考慮されるべき事情ではない。それにもかかわらず、処分庁はこれを考慮している。
その結果、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により、本件申請を承認すべきであるにもかかわらず承認しないという、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く処分がされようとしている。したがって、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法である。
2. よって、X社は上記のように反論する。
第1問設問2
1. X社は、②に対して、本件申請が、「申請」(行政手続法(以下「行手法」)2条3号)に該当するため、何らかの処分をしないことは厚生労働大臣の本件申請に対する審査応答義務(同7条)に反するから何らかの処分をすべきと、反論すると考えられる。
⑴まず、本件申請に対する承認について、行手法の適用除外(同3条、4条)には当たらないため、行手方が適用される。
⑵では、本件申請は「申請」に当たるか。「申請」とは、(ⅰ)「法令に基づき」、(ⅱ)「何らかの利益を付与する処分・・・を求める行為であって、」、(ⅲ)「当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう」(行手法2条3号)。
ア (ⅰ)について、本件申請は、薬機法14条3項に「基づ」く((ⅰ)充足)。
イ (ⅱ)について
(ア) 「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい、㋐公権力性、㋑直接具体的法効果性から判断される。
a ㋐について、本件申請に対する処分は、公権力の主体たる厚生労働大臣が、薬機法14条1項に基づき一方的に行うものである(㋐充足)。
b ㋑について、本件申請に係る承認は、申請者に対し、医薬品を適法に販売できるという法効果を直接具体的に付与する(㋑充足)。
c したがって、「処分」に当たる。
(イ)また、本件申請に対する承認は、医薬品を適法に販売できるという「利益を付与する」。
(ウ)したがって、(ⅱ)を充たす。
ウ (ⅲ)について、本件申請に対しては、行手法7条に基づき「諾否の応答をすべきこととされている」((ⅲ)充足)。
エ したがって、本件申請は、「申請」に当たるため、②の対応は行手法7条に反する。
2. よって、X社は上記のように反論する。
以上