6/18/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
名古屋大学法科大学院2024年 刑法
設問Ⅰ
1. 中立的行為による幇助とは、外形上は犯罪を促進するような意味を持たない行為を行うことにより、幇助犯が成立するか、という問題である。
2. 本問題は、上記のように外形上は中立的な行為について、いかなる場合に処罰することが許されるのか、このような行為を処罰することで処罰範囲が広がりすぎて自由が過剰に制限されるのではないかという点に問題の所在がある。
3. 例えば、インターネット上でファイル共有ソフトサービスを提供していた者について、そのサービスが著作権法に反する行為に利用されたといった場合、外形上はファイル共有サービスの提供という中立的行為に留まるにもかかわらず、処罰が可能であるか、という問題が生じる。
4. この点、判例においては、一般的可能性を超える具体的侵害状況が存在し、かつ、そのことを提供者においても認識・認容していることが必要であるとの判断枠組みを示している。
設問Ⅱ
1. 甲の罪責について
⑴乙の財布を拾って懐中に入れた行為について、窃盗罪(235条)が成立するか。
ア 「他人の財物」とは、他人の占有する他人の所有物をいうところ、本件財布は乙の所有物であるが、乙が占有していたと言えるか。
占有の有無については、占有の事実と占有の意思を考慮して決するべきであり、前者について具体的には、財物自体の特性、財物の置かれた場所的状況、時間的場所的接着性、置き忘れた場所の見通し状況、被害者の認識・行動を考慮する。
本件で、たしかに財物の置かれた場所は人気が少なく、また夜更けであったので他人に発見されにくいというものであった。また、甲の上記行為時に乙は財布から200メートルと近づいており、落としたことに気づき、大まかな場所も特定している。しかし、財物自体の特性は財布と小さいもので移動が容易なものであり、甲が乙を本件財布が落ちていた甲の自宅前から追いかけて一度見失っているなど一度は乙も財布から離れている。また、上述の財布から200メートル地点において財布のある場所を見通すことは不可能であった。これらを総合的jに考慮すると、本件財布を乙が占有していたとは言えない。
イ 以上より、本件財布は「他人の財物」に当たらず、同罪は成立しない。
⑵甲の上記行為は、本件財布という「占有を離れた他人の物」を「横領」するものであり、故意(38条1項本文)や不法領得の意思に欠けることもないから、占有離脱物横領罪(254条)が成立し、甲はかかる罪責を負う。
2. 乙の罪責
⑴甲の腕に対して唾を吐きかけた行為については、以下の通り暴行罪(208条)が成立する。
ア 「暴行」とは人の身体に対する不法な有形力の行使をいうところ、腕に唾を吐きかける行為は人の身体たる腕に対する不法な有形力の行使にあたり、「暴行」に該当する。なお、「暴行」については人を傷害させるおそれがあることまで要求されるものではない。
イ 甲は客観的構成要件についての認識・認容があり、故意が認められる。
⑵X宅に電話を掛けて現金の隠し場所を聞き出し、凶器の包丁を持ってX宅を訪れた行為について、強盗未遂罪(243条、236条1項)が成立するか。
ア 本件で、乙はX宅に到着し、包丁を隠したまま玄関の呼鈴を鳴らしたところで逮捕されているところ、強盗罪の実行の着手(43条本文)が認められるか。
(ア)未遂の処罰根拠は、結果発生の具体的危険性を生じさせたことに求められる。そのため、実行の着手は、結果発生の具体的危険性が認められる時点で認められる。その判断は、実行行為を確実に行うために必要不可欠であったか、準備行為と実行行為との間に障害となる事由があったか、両行為の時間的場所的接着性等を考慮して行う。
(イ)本件で、乙が強盗を遂行するためには、X宅にお金があること、X宅における現金の隠し場所を事前に把握しておくことが必要不可欠であった。また、現金の隠し場所を聞き出し、包丁を用意してX宅を訪れれば、その後犯罪の実行に障害となるような事由は存在しなかった。さらに、乙がX宅を訪れた時点において、実行行為を行うまでの時間的場所的接着性が認められることは明らかであるといえる。
(ウ)そうすると、乙がX宅を訪れた時点で結果発生の具体的危険性が認められ、実行に着手したといえる。
イ したがって、上記行為について強盗未遂罪が成立する。
⑶よって、乙は暴行罪及び強盗未遂罪の罪責を負い、両者は社会通念上別個の行為であるため、併合罪(45条前段)となる。
以上