5/10/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
同志社大学法科大学院2025年 商法
問⑴
1. 乙社はAに対して429条1項に基づいて損害賠償を請求する。
2. Aは代表取締役であるから、「役員等」にあたる。
では、「職務を行うにつき悪意又は重大な過失」は認められるか。第三者に対する加害行為ではないため、同条の法的性質と共に問題となる。
429条1項は、社会において重要な地位を占める会社の活動が役員等の職務執行に依存していることから、役員等に特別の法定責任を負わせて放漫経営を禁圧し、第三者を保護するものと考える。そこで、「職務を行うにつき悪意又は重要な過失」とは、任務懈怠とそれについての悪意又は重過失で足りると解する。
本問において、Aは代表取締役という重要な地位にあった。コーヒー豆の世界的な不作から喫茶店業界の長期不況が予測されるに至り、計画を見直し改装費用を節減するなどの対策を提案する取締役がいた。経済状況は日々変化するものであるから、請負契約締結当時は合理的な判断であったとしても、計画を見直していく必要があることからすると、Aは他の役員等の意見を聞き甲社の売上げのために調査をする義務を負っていたと解される。
そうであるにもかかわらず、Aは他の取締役の提案に耳を貸さず、コーヒーの仕入れ確保にのみ奔走し、甲社の売上予測や本件代金の支払い可能性を丁寧に見直すこともなく、店舗の取引相場の動向の継続的な調査をしなかったのであるから、上述の義務を怠ってたといえ、任務懈怠が認められ、そのことにつき重過失が認められる。
よって、「職務を行うにつき悪意または重要な過失」といえる。
3. 「第三者」とは、会社と役員以外の者をいうから、乙社は「第三者」である。
4. 乙社は請負代金10億円の債権を回収できていないから任務懈怠によって「損害」が生じたと認められる。
5. 以上より、乙社の請求は認められる。
問⑵
1. 株主は、株主総会決議によっていつでも役員を解任することができる(339条1項)。そして、定時株主総会の目的に、役員の解任は含まれていないから、Aの解任について、303条に基づき株主提案権を行使することが必要である。
2. 甲社は取締役会設置会社で非公開会社(2条17号)であるから、総株主の議決権の百分の一以上の議決権又は三百個以上の議決権を有している必要がある(同条2項、3項)。
総株主の議決権のうちXは十分の一の議決権を有しており、令和5年から定時株主総会が予定されている令和7年3月は半年以上あるので、要件を満たす。
3. なお、賛同を得るために、Xは議案要領通知請求権(305条1項、2項)を併せ行使することも考えられる。
4. 以上の手続によって、XはAを取締役から解任することができる。
以上