11/22/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2021年 刑事訴訟法
第1 設問1
1. ①の公訴事実では、単に「Yと共謀の上」とのみ記載され、共謀の日時・場所・方法等が記載されていないところ、かかる公訴事実は「罪となるべき事実」を特定(刑事訴訟法(以下、略)256条3項)したものといえるか。
⑴ 訴因には、裁判所に対し審判対象を限定する機能(審判対象画定機能)と、被告人に対し防御の範囲を示す機能(防御権告知機能)がある。そして、防御権の保障は、起訴状提出以降の手続において図るのが実際的である以上、審判対象画定機能が訴因の第一次的な機能であると解する。そこで、訴因は、①被告人の行為が当該犯罪の構成要件に該当するものであると認識することができ、➁他の犯罪事実と識別しうる程度に特定されていれば「罪となるべき事実」を特定したといえると解する。
⑵ 本件では、上述のとおり「Yと共謀の上」とのみ記載され、共謀の日時・場所・方法等が記載されていない。しかし、共謀共同正犯の成立には、客観的な謀議行為は必要でなく、実行行為時における共同遂行の合意があれば足りる。そのため、「共謀の上」との記載で足り、具体的な謀議行為は訴因の特定に必要ない。したがって、「共謀の上」、「殺意を持って」、「頸部を締め付け」、「窒息により死亡させて殺害した上」、「現金約4万円を強取した」との記載から、本件では強盗殺人罪の共同正犯の構成要件に該当する行為の記載がなされているといえる(①充足)。また、実行行為の日時・場所・方法が、それぞれ「令和2年4月14日午後9時頃」、「M県S市A区所在のV方」、「ガスホースでVの頸部を締め付け」たというように特定されており、他の犯罪事実と識別しうる(➁充足)。
2. 以上より、「罪となるべき事実」を特定したものといえる。
第2 設問2
1. 検察官の②の釈明(刑事訴訟規則208条参照)の内容は、訴因の内容となるか。
⑴ 上記のとおり、訴因制度の第一次的機能は審判対象の確定にあり、法はその変更に厳格な手続を要求している(312条1項)。そのため、検察官の釈明のみでそれが訴因の内容になるとすると、訴因変更に厳格な手続を要求した法の趣旨を害することになる。そこで、検察官が釈明した事項が「罪となるべき事実」(256条3項)の特定に必要な事項でなく訴因を具体化するものに過ぎない場合には、当該釈明は訴因の内容とならないと解する。
⑵ これをみるに、➁の釈明は、実行行為者を特定するものである。しかし、上記のとおり、共謀共同正犯の成立には、実行行為時における共同遂行の合意があれば足り、誰が実行行為者であっても共謀共同正犯が成立する以上実行行為者の特定は「罪となるべき事実」の特定に不可欠な事項ではない。
よって、②の釈明の内容は、「罪となるべき事実」の特定に必要な事項ではない。
2. 以上より、②の釈明の内容は、訴因の内容とならない。
第3 設問3
1. まず、裁判所が、実行行為者を「X又はYあるいはその両名」と認定して有罪判決をすることは、「罪となるべき事実」(335条1項)の判示に欠け、許されないのではないか。
⑴ 裁判所の審判対象は訴因であるから「事実」とは、訴因の特定に必要な事実をいうと考える。
⑵ これをみるに、上述のとおり、共謀共同正犯における実行行為者が誰であるかは、訴因の特定に必要な不可欠とはいえない。
⑶ したがって、本件では、「罪となるべき事実」の判示に欠けるとはいえず、335条1項に反しない。
2. 次に、裁判所が検察官の釈明した「実行行為者はXである。」という事実に反して、訴因変更手続(312条1項)もなく上記のような認定をすることは、不告不理原則(378条3号)に反し、違法とならないか。訴因変更手続が必要とならないかが問題となる。
⑴ 当事者主義的訴訟構造(256条6項、312条1項など)のもと、裁判所の審判対象は一方当事者たる検察官が主張する具体的事実である訴因に限られる。そのため、検察官の主張する具体的事実に差異が生じた場合には、訴因変更手続が必要となるのが原則である。
もっとも、多少の事実の食い違いに常に訴因変更手続が必要となると訴訟不経済である。そこで、事実に重要あるいは実質的な差異が生じた場合に限り訴因変更手続が必要となると考える。
具体的には、訴因の上記機能に鑑みて、①審判対象画定にために不可欠な事実が変動した場合には訴因変更が必要であると考える。また、それ以外の事実であっても、➁争点明確化の観点から、それが訴因において明示され、一般的に被告人の防御にとって重要な事項である場合には、原則として訴因変更を要すると考える。
もっとも、かかる事実は、訴因制度とは無関係な争点明確化の観点から要求されるにすぎないから、審理経過等から、被告人にとって不意打ちとならず、かつ不利益とならない場合には訴因変更を要しないと考える。
⑵ これをみるに、本件で問題となる、実行行為者を「X又はYあるいはその両名」とする認定は、上述のとおり、訴因の特定に不可欠な事項ではなく審判対象画定のために不可欠な事項とはいえない(①不充足)。また、もともと訴因では、実行行為者が特定されておらず、訴因の内容とならない検察官の釈明で「実行行為者はXである。」と釈明がされたのみであるから、訴因に明示されていたともいえない(➁不充足)。
⑶ したがって、本件で訴因変更は不要であり、不告不理の原則にも反しない。
3. そうだとしても、裁判所が争点顕在化措置を講じることなく上記の認定をすることは、379条に反し、違法とならないか。
⑴ 裁判所は、訴因変更が必要にならない事実であっても、審理全体を通して争点明確化による不意打ち防止の要請が働く以上、被告人の防御に配慮すべきである。そこで、被告人に不意打ちのおそれがある場合には、裁判所には争点顕在化措置義務があり、その義務を怠った場合には379条違反となると考える。
⑵ これをみるに、確かに、一般に実行行為者が誰であるかは被告人の防御にとって重要な事項である。また、本件では、検察官が裁判所の旧釈明に対し実行行為者がXであると釈明している。しかし、これに対しXは実行行為者がYであると主張し、本件ではこのような検察官の釈明やX側の主張を踏まえて、「V殺害の実行行為者は誰であるか。」が争点とされている。そして、公判においては、この争点に関するあらゆる可能性につき、検察官及びX側による詳細な主張立証が展開されている。そのため、本件では実行行為者についてあらゆる可能性が審理されており、裁判所にかかる点について争点顕在化義務違反は認められない。
⑶ 以上より、裁判所が上記のように認定して判決を行うことは379条に反しない。
4. 以上より、裁判所が「X又はYあるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることは許される。
以上