4/20/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
日本大学法科大学院2024年 民法
設問1
1. Yが虚偽の事実を述べたことを問題とする場合
⑴Xは、Yに対して、本件土地の売買契約の締結の意思表示について詐欺取消し(民法(以下、法令名略)96条1項)を主張し、原状回復請求権(121条の2第1項)に基づき、本件土地の返還とYの本件土地についての所有権移転登記の抹消登記手続を請求することが考えられる。
⑵「詐欺」「による意思表示」といえるには、欺罔行為によって錯誤が生じ、錯誤に基づく意思表示がなされたこと、詐欺の故意を要する。
Yは、本当は代金を支払う意思がないのに、代金は引渡しと登記移転の翌日に全額支払うと虚偽の事実を述べており、かかる行為は欺罔行為にあたる。また、詐欺の故意も認められる。そして、それに基づきXは誤信し、本件土地の売買契約(555条)を締結しており、上記欺罔行為によって錯誤が生じ、錯誤に基づく意思表示がなされたといえる。
そのため、Xは本件契約を取り消すことができる。
⑶よって、XはYに対し、原状回復義務(121条の2第1項)に基づき、本件土地の明渡しと所有権移転登記の抹消登記手続を請求することがよい。
2. Yが売買代金を支払わないことを問題とする場合
⑴Xは、Yに対して本件土地の売買契約の解除(541条本文)を主張し、原状回復義務(545条1項本文)に基づき、本件土地の返還とYの本件土地についての所有権移転登記の抹消登記手続きを請求することが考えられる。
⑵Yは、本件契約に基づく1億円の支払「債務を履行し」てい「ない」。Yは売買代金の全額を支払っていないため、債務不履行が「軽微」(541条但書)であるとはいえない。そのため、Xは、Yに対し、「相当の期間を定めてその履行の催告」を行い、Yが「その期間内に履行」を行わない場合、契約を解除することができる。
⑶よって、XはYに対し、原状回復義務(545条1項本文)に基づき、本件土地の明渡しと所有権移転登記の抹消登記手続を請求することがよい。
設問2
1. 設問1(1)の場合
⑴Xは、所有権(206条)に基づき、抵当権設定登記の抹消登記手続きを請求することが考えられる。Xは本件土地をもと所有し、Sは抵当権設定登記を有するから、請求原因を充たす。
⑵これに対し、Sは、XY間の本件土地の売買契約により、Xは本件土地の所有権を喪失したと反論することが考えられる。
⑶これに対し、Xは、上記売買契約について詐欺取消し(96条1項)を主張し、遡及して(121条)Xが本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
⑷ これに対し、Sは、96条3項の「第三者」にあたり、かかる再反論は認められないと再々反論することが考えられる。
96条3項の趣旨は、取消の遡及効(121条)の制限による第三者の保護にある。したがって、「第三者」とは、当事者及び包括承継人以外の者で、取り消された法律行為を前提に、取消前に新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。また、取消権者と第三者は前主後主の関係にあるといえ、対抗関係に立たないから対抗要件としての登記(177条)は不要である。
本件では、XがYに対して、詐欺取消しを主張するよりも先に、YからSに本件土地について抵当権設定登記の経由がなされている。したがって、Sは、本件契約の当事者及び包括承継人以外の者で、本件契約の存在を前提に本件土地について、取消前に新たに独立の法的利害関係を有するに至った者であり、「第三者」に当たる。
また、Sに詐欺について悪意又は有過失の事情はなく、「善意でかつ過失がない」といえる。
よって、Sの再々反論が認められる。
⑸したがって、XのSに対する請求は認められない。
2. 設問1(2)の場合
⑴Xは、所有権に基づき、抵当権設定登記の抹消登記手続きを請求することが考えられる。上記の通り、請求原因を充たす。
⑵これに対し、Sは、上記の通り、XY間の本件土地の売買契約により、Xは本件土地の所有権を喪失したと反論することが考えられる。
⑶これに対し、Xは、上記売買契約の解除(541条本文)を主張し、遡及してXが本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
⑷これに対し、Sは、545条1項但書の「第三者」にあたり、かかる再反論は認められないと再々反論することが考えられる。
まず、解除の趣旨は、解除権者を双務契約の法的拘束から解放して契約締結前の状態を回復させる点にあるから、解除の効果は遡及的無効と解する。そして、545条1項但書の趣旨は、かかる解除の遡及効の制限による第三者の保護にある。したがって、「第三者」とは、当事者及び包括承継人以外の者で、解除された法律行為を前提に、解除前に新たに独立の法的利害関係を有するに至った者をいう。また、解除権者になんら帰責性がない以上、権利保護要件としての登記を要する。他方で、条文上、善意は要求されていないし、解除原因が存在しても必ずしも解除されるとは限らないから、解除原因について悪意の者も「第三者」にあたる。
本件では、XがYに対して、売買契約の解除を主張するよりも先にYからSに抵当権設定登記の経由がなされている。したがって、Sは、本件契約の当事者及び包括承継人以外の者で、本件契約の存在を前提に、解除前に本件土地について新たに独立の法的利害関係を有するに至った者である。また、Sは登記を有している。したがって、Sは「第三者」に当たる。
よって、Sの再々反論が認められる。
⑸したがって、Xの請求は認められない。
設問3
1. 設問1(1)の場合
⑴Xは、Zに対し、本件土地の所有権を主張することができるか。まず、Xは本件土地をもと所有しているから請求原因を充たす。
⑵これに対し、Zは、本件土地の売買契約によって、Xは本件土地の所有権を喪失したと反論することが考えられる。
⑶これに対し、Xは、上記売買契約について詐欺取消し(96条1項)を主張し、遡及して(121条)Xが本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
⑷ これに対し、Zは、①Zが96条3項の「第三者」にあたる、又は、②Zが177条の「第三者」に当たり、Xは本件土地の所有権を対抗できないため、Xの請求は認められないと再々反論することが考えられる。
ア ①について
「第三者」(96条3項)とは、上記の通り、取消前に利害関係を有するに至った者に限定される。Zは、売買契約の取消後に本件土地について利害関係を有するに至っているから、「第三者」に当たらず、①の再々反論は認められない。
イ ②について
177条の趣旨は、物権変動を公示して不動産取引の安全を図ることにある。したがって、同条の「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に限定して解する。そして、取消の効果は遡及的無効であるところ、実質的には取消権者への復帰的物権変動を観念することができ、取消の相手方を起点とする二重譲渡類似の関係にある。したがって、取消権者と取消後の第三者は「対抗」関係に立ち、取消後の第三者は「第三者」(177条)に当たる。
Zは、売買契約の取消後に本件土地について利害関係を有するに至っているから、当事者及びその包括承継人以外の者でXの本件土地の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に当たり、「第三者」に当たる。
したがって、②の再々反論は認められる。
⑸以上から、Xは、Zに対し、本件土地の所有権を主張できない。
2. 設問1(2)の場合
⑴Xは、Zに対し、本件土地の所有権を主張することができるか。まず、Xは本件土地をもと所有しているから請求原因を充たす。
⑵これに対し、Zは、本件土地の売買契約によって、Xは本件土地の所有権を喪失したと反論することが考えられる。
⑶これに対し、Xは、上記売買契約について解除(541条本文)を主張し、遡及してXが本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
⑷ これに対し、Zは、①Zが545条1項但書の「第三者」にあたる、又は、②Zが177条の「第三者」に当たり、Xは本件土地の所有権を対抗できないため、Xの請求は認められないと再々反論することが考えられる。
ア ①について
「第三者」(545条1項但書)とは、上記の通り、解除前に利害関係を有するに至った者に限定される。Zは、売買契約の解除後に本件土地について利害関係を有するに至っているから、「第三者」に当たらず、①の再々反論は認められない。
イ ②について
上記の通り、解除の効果は遡及効であるから、実質的には解除権者への復帰的物権変動を観念することができ、解除の相手方を起点とする二重譲渡類似の関係にある。したがって、解除権者と解除後の第三者は「対抗」関係に立ち、解除後の第三者は「第三者」(177条)に当たる。
Zは、売買契約の解除後に本件土地について利害関係を有するに至っているから、当事者及びその包括承継人以外の者でXの本件土地の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に当たり、「第三者」に当たる。
したがって、②の再々反論は認められる。
⑸以上から、Xは、Zに対し、本件土地の所有権を主張できない。
以上