6/20/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
岡山大学法科大学院2025年 民事訴訟法
問1
1. 裁判所が、Yの弁済の抗弁(①の主張)について審理判断する前に、Yの相殺の抗弁(②の主張)を審理判断することは許容されるか。
そもそも、複数の抗弁がされた場合も、審理の簡易化・弾力化という趣旨から、判決理由中の判断には既判力は及ばないので(民事訴訟法114条1項)、原則としてどの抗弁を先に認定しても許される。
もっとも、相殺の抗弁は理由中の判断であっても既判力が生じる(114条2項)ため、相殺の抗弁を先に審理すると、抗弁提出者に実質敗訴という不利益を与えてしまう。
そこで、裁判所は相殺の抗弁を予備的抗弁として扱わなければならない。
2. よって、本件においても裁判所はYの相殺の抗弁は予備的抗弁としなければならないため、弁済の抗弁よりも先に相殺の抗弁を審理判断することは許容されない。
問2
1. まず、裁判所がすべき本案判決の内容について、「XY債権は1000万円全額が存在するが、YX債権は既に全額が弁済され、不存在である」との心証に達しているのであるから、Yの弁済の抗弁も相殺の抗弁も認められず、請求認容判決をすべきである。
2. では、かかる判決が確定した時にどのような内容の既判力が生じるか。
⑴既判力の客観的範囲については、審理の簡易化・弾力化のため、訴訟物たる権利関係の存否についての判断と、相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について(同条2項)既判力が及ぶ。同項の趣旨は、訴求債権の存否についての紛争が反対債権の存否の紛争として蒸し返され、判決による解決が意味を失うことを防止することにある。本問において、主張されたYX債権は訴求債権(XY債権)と同額の1000万円であるので、既判力が及ぶ「相殺をもって対抗した額」の範囲もYX債権全額の1000万円である。
また、既判力の時的範囲については、当事者は事実審口頭弁論終結時までは訴訟資料を提出することができ、既判力の正当化根拠である手続保障が及んでいるから、事実審の口頭弁論終結時である。
そして、既判力の主観的範囲については、既判力の根拠は手続保障の充足に基づく自己責任であるから、当該事件につき手続保障が与えられた「当事者」間に相対的に生じるのが原則である(115条1項1号)。
⑵よって、本件では、本訴の事実審口頭弁論終結時において、XY債権が1000万円全額存在すること、及びYX債権が全額不存在であることにつきXY間において既判力が生じる。
以上