4/20/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
日本大学法科大学院2024年 刑法
1. Vに対する行為
(1)甲が手製拳銃で弾丸を一発発射し、Vに右側胸部貫通銃創の傷害を負わせ、拳銃を奪って逃走した行為について、強盗殺人未遂罪(刑法(以下、略)236条1項、240条後段、243条)が成立しないか。
ア 「暴行」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の有形力の行使、をいう。甲は、手製拳銃の弾丸をVに命中させ、右側胸部貫通銃創という重大な傷害結果を生じさせているため、相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の有形力の行使が認められ、「暴行」にあたる。
イ 甲は倒れているVから同人所有の拳銃を奪っており、「他人の財物」を「強取」したと認められる。したがって、甲は「強盗」(236条1項)にあたる。
ウ ここで、240条の法定刑が非常に重く規定されているのは、同条の第一次的な保護法益が人の生命・身体にあるためである。そこで、既遂・未遂の判断は死傷結果の有無により決されるべきである。本件で、Vにつき死亡結果は生じていないため、甲には強盗殺人未遂罪が成立しうるに留まる。
エ 甲は上記構成要件の認識・認容があり、故意(38条1項本文)に欠けるところはない。
⑵よって、上記行為について、強盗殺人未遂罪が成立する。
2. Wに対する行為
(1)Vが手製拳銃で弾丸を一発発射し、Wに腹部貫通銃創の傷害を負わせた行為について、強盗殺人未遂罪(236条1項、240条後段、243条)が成立しないか。
ア 甲については、上記の通り、強盗殺人未遂罪の客観的構成要件に該当することが認められる。
イ もっとも、甲は周囲に人影が見えない状態になったとみるやVに対する上記行為を行っており、Wの存在を認識していなかったと思われる。そうすると、甲にWに対する強盗殺人未遂罪の故意(38条1項本文)が認められず、強盗殺人未遂罪(236条1項、240条後段、243条)の成立は否定されるのではないか。
(ア)故意責任の本質は、犯罪事実の認識・認容によって、規範に直面し、反対動機が形成できるのに、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難に求められる。そして、規範は構成要件の形で提示される以上、行為者の認識した犯罪事実と現実に発生した犯罪事実とが同一の構成要件内で符合していれば、行為者は規範に直面し、反対動機の形成が可能である。
そのため、行為者の認識した犯罪事実と現実に発生した犯罪事実とが同一の構成要件の範囲内で符合していれば、故意が認められると考える。
そして、このように故意の対象を構成要件の範囲内で抽象化する以上、故意の個数は問題にならないと解する。
(イ)甲は、Vを殺害した上で拳銃を奪おうとする認識がある以上、その認識と現実に発生した犯罪事実とがおよそ強盗殺人罪という同一の構成要件の範囲内で符合している。そのため、甲にはWに対する強盗殺人罪の故意が認められる。
ウ よって、上記行為について、強盗殺人未遂罪が成立する。
3. 罪数
甲に、➀Vに対する強盗殺人未遂罪と➁Wに対する強盗殺人未遂罪が成立し、➀と➁は社会通念上一個の行為であるため、観念的競合(54条1項前段)となる。
以上