6/15/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
岡山大学法科大学院2025年 民法
問1
1. Cは所有者として、甲土地を直接占有しているAに対して甲土地の明け渡しを求めているのであるから、本件請求は所有権(民法206条)に基づく返還請求権としての土地明渡請求であるが、本件請求は認められるか。
⑴本件請求が認められるためには、Cの甲土地所有とAの甲土地占有が必要である。
Cの甲土地所有について、Aが2024年4月1日、甲土地を1000万円でBに売却し(本件売買①)、Bは同年5月1日、甲土地を1100万円でCに売却している(本件売買②)のであるから、Cは甲土地を所有している。また、Aは甲土地を直接占有している。
よって、Cの甲土地所有とAの甲土地占有が認められる。
⑵ここで、AはCが対抗要件たる登記(177条)を具備するまで、Cの甲土地所有を認めないと対抗要件の抗弁を主張することが考えられるが、かかる抗弁は認められるか。甲土地の登記名義人はCではなくAであるため、Aが「第三者」に当たればかかる抗弁は認められるため、「第三者」の意義が問題となる。
同条の趣旨は、登記による画一的処理により、不動産取引の安全を図る点にある。そこで「第三者」とは、かかる取引安全を図る必要のある者、すなわち当事者及びその包括承継人以外のもので登記の不存在を主張する正当な利益を有する者を言う。
本件で、上述のようにAからB、BからCと甲土地が売買されており、Aはすでに甲土地の所有権を喪失しているから、登記の不存在を主張する正当な利益を有しない。
よって、Aは登記がなければ対抗することができない「第三者」には当たらず、Aの抗弁は認められない。
2. 以上より、Cの請求は認められる。
問2
1. CのDに対する所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡請求は認められるか。
⑴本件請求が認められるためには、Cの甲土地所有とDの甲土地占有が必要であるが、上述の通り本件売買①と本件売買②によりCは甲土地を所有し、Dが甲土地を直接占有していることから、Cの甲土地所有とDの甲土地占有を満たす。
⑵ここで、DはCが対抗要件たる登記を具備するまで、Cの甲土地所有を認めないと対抗要件の抗弁を主張することが考えられるが、かかる抗弁は認められるか。甲土地の登記名義人はCではなくAであるため、Dが「第三者」に当たればかかる抗弁は認められるため、問1と同様に「第三者」の意義が問題となる。
「第三者」とは、上述の通り、当事者及びその包括承継人以外のもので登記の不存在を主張する正当な利益を有する者を言う。そして、自由競争原理から、自己に先立つ譲渡についての悪意者であっても、上記正当な利益を有すると解すべきであるが、自由競争の範囲を逸脱した背信的悪意者については、信義則(1条2項)上、正当な利益を有さず、「第三者」に当たらないと考える。
よって、本件でDが本件売買①について背信的悪意がある場合を除き、Dは「第三者」に当たり、上記抗弁が認められる。
2. 以上より、Dが本件売買①について背信的悪意がある場合を除き、本件請求は認められない。
問3
1. AからCに直接甲土地の登記を移す、いわゆる中間省略登記は現行法上認められていないので、AからB、BからCと登記を移転しなければならない。そこで、以下でそれぞれの方策について論じる。
2. AからBの甲土地の登記の移転について
423条の7は、「登記…をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗できない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続…をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる」としている。甲土地は「登記…をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗できない財産」であり(177条)、Cは本件売買②により、甲土地を譲り受けた者であるから、Cは「登記…をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗できない財産を譲り受けた者」である。そして、本件売買②の譲渡人たるBは、本件売買①においてAから甲土地を買っているにも関わらずAからBの甲土地の登記の移転がなされていないため、本件は、「その譲渡人が第三者に対して有する登記手続…をすべきことを請求する権利を行使しないとき」に当たる。よって、CはAからBへの登記請求権を行使することができる。そして、Aの協力や同意が得られない場合には、かかる請求権を訴訟によって実現することになる。
3. BからCの甲土地の登記の移転について
BからCへの甲土地の登記移転は、本件売買②においてBが負う債務である。よって、Bの協力や同意が得られない場合には、訴訟によってBに対し売買契約に基づく登記移転請求をすることになる。
以上