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2023年 刑法 東北大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑法 東北大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

東北大学法科大学院2023年 刑法

第1 Yの罪責

1. YがXを脅そうと考え、Xに対して「あんた、夜道を歩くときは、背後に気をつけなよ。」といった行為について、脅迫罪(刑法(以下略)222条1項)が成立しないか。

⑴ 脅迫罪は「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」することで成立する。「脅迫」とは、一般に相手方を畏怖するに足りる害悪の告知をすることである。また、脅迫罪は抽象的危険犯であるので、相手方が実際に畏怖した結果は不要である。

⑵ 本件において、「こっちから辞めてやるよ。こんな店、つぶれちまえ。」と悪態をつかれた後に、「あんた、夜道を歩くときは、背後に気をつけなよ。」と発言があった場合は、一般人の観点からみると、生命または身体に何らかの危害が加えられると感じるのが通常である。そして、それは畏怖するに足りる程度の害悪の告知であるといえる。
 よって、YはXに対して、「生命、身体」「に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」したといえる。

⑶ したがって、Yには脅迫罪が成立する。

2. YがXを殴打しようとXの胸ぐらを掴んだ行為に対して暴行罪(208条)が成立しないか。

⑴ 「暴行」とは人の身体に対する有形力の行使を指し、傷害結果が生じていないことが必要である。

⑵ 胸ぐらを掴む行為は、人の身体に対する有形力の行使であり、Xには傷害結果が生じていないため、「暴行」に当たる。

⑶ したがって、Yには暴行罪が成立する。

3. 以上より、Yには脅迫罪と暴行罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。

第2 Xの罪責

1.  XがYに対して、果物ナイフを構えて「こっちに来るな。刺すぞ。」と言った行為は脅迫罪が成立しないか。

 脅迫罪の構成要件は前述の通りであり、果物ナイフという殺傷能力が低い凶器であっても、刺すぞと大きな声で申し向けながらナイフを構えることは、一般人の観点から見て、畏怖するに足りる生命、身体に対する害悪の告知であるといえる。Xは実際に指すつもりがなかったという事情があるが、かかる事情は同罪の成否には影響しない。
 したがって、Xの行為は脅迫罪の構成要件該当性を満たす。

2. もっとも、XはYから殴られないようにしようと考えた末に、かかる行為に及んでいるため、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

⑴ 本件において、XはYからの予想以上に激しく怒って暴行をしてくることから逃げようと、本件脅迫行為に及んでいるため、急迫不正の侵害、防衛の意思があるといえる。また、武器対等の原則から相当性が否定されそうであるが、体格、年齢差を考慮した場合に、相当性は否定されないと考えられる。そのため、Xには正当防衛が成立するとも思われる。

⑵ もっとも、Yの暴行はXの挑発を聞いて激高したことによるものであり、自招侵害として正当防衛が否定されるのではないか。

ア 正当防衛を基礎付ける前提として正対不正の関係性が必要であるが、防衛行為者が不正な行為によって相互闘争状況を招き、不正対不正の状況になった場合には正当防衛の成立は制限される。具体的には、①行為者の不正な挑発行為によって直後における近接した場所での一連一体の事態か否かを問い、これが認められる場合に、②その侵害が行為者の当初の挑発行為の程度を大きく超えるものではない場合は、反撃行為に出ることが正当とされる状況にないと解すべきである。

イ 本件において、①Yの暴行はXの挑発行為に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができる。しかし、②Yの暴行は胸ぐらを掴みX殴打しようとするものでありYによるかかる侵害行為はXの挑発行為の程度を大きく超えるものといえる。よって、自招侵害は認められない。

⑶ したがって、Xの上記行為に正当防衛は成立する。

第3 Zの罪責

1. ZはAに対して虚偽の申告をして、病院に同行させている。この行為は、偽計業務妨害罪(233条後段)が成立しないか。

⑴ 「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤または不知を利用することをいうところ、本件において、Zは自分で家庭用洗剤を注入したにもかかわらず、甲から被害にあったように装って、Aにその旨を申告し、Aを錯誤に陥らせて、病院へ同行させている。そのため、Zの行為は「偽計」に該当する。

⑵ もっとも、Aは警察官であり、Aの行為は警察官としての公務であるが、公務は同罪の「業務」に該当するのか。

ア まず、前提として、暴行に至らない偽計による場合、公務執行妨害罪(95条1項)は成立しない。そのため業務妨害罪の成否について問題となり、特に公務が「業務」に含まれるのかが問題となる。
 この点について、強制力を行使する権力的公務については威力・偽計は実力で排除できるが、そうではない非権力的公務についてはそのような実力はない。しかも、非権力的公務は一般私人の業務と区別する必要はなく、「業務」に当たるとしても無理はない。したがって、非権力的公務のみが「業務」に含まれるとするのが妥当である、なお、権力性の有無は個別具体的に判断すべきである。

イ 本件におけるAの公務は強制力を行使する権力的公務ではないので、非権力的公務である。そのためAの公務は「業務」にあたる。

⑶ 「妨害した」とは抽象的危険犯であり、業務を妨害する恐れがある行為が行われれば足りるところ、Zの行為によってAが本来行うべき公務が出来なくなっているため、「妨害した」といえる。

⑷ よって、Zには偽計業務妨害罪が成立する。

2. Zが警察から報道機関に対して甲について虚偽の事実を報道させた行為について、信用毀損罪(233条前段)が成立しないか。

⑴ 「虚偽の風説を流布」するとは、客観的真実に反する噂・情報を不特定または多数の人に伝播させることをいうところ、報道機関に客観的真実に反する情報を報道させれば不特定多数の人に伝播することになり、かつ、Zの自作自演による被害であり実際に異物が混入された事実はないため、客観的真実に反する事実である。そのため、Zの行為は「虚偽の風説を流布し」たといえる。

⑵ 「信用」とは経済的側面における人の評価であるが、コンビニエンスストアにとって商品の品質に対する社会的な信用は、経済的に重要なものであるため、「信用」に含まれる。

⑶ 同罪は危険犯であるため、報道されることにより、信用が毀損される恐れは十分にあることから、Zの行為は「信用」を「毀損」したと言える。

⑷ よって、Zには信用毀損罪が成立する。

3. 以上より、Zには偽計業務妨害罪と信用毀損罪が成立し、両者は併合罪となる。

以上

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